ep.26

 家から桃華と歩くこと数十分、俺たちは今静さんのカフェの目の前に立っている。事前にランチがやっているのか聞いてみたら『もちろんやっているので、ぜひ来てください!』と元気な返事を貰った。


 店内へ入るとカウンターに座り本を読んでいた静さんがこちらに気づく。


「先週ぶりですね、宇津さん。お隣の方は……?」


「えーと、知り合い?友達?の桃華です」


「ご紹介に預かりました!宇津さんの同居人の桃華です、よろしくお願いします!」


「…同居人?」


 変な問題を起こさないようにするために上手く誤魔化したと思ったのが、桃華があっさりと一緒に住んでいることをバラされる。バラした本人は何故かシャーッと威嚇しているし訳が分からない。とりあえず静さんに誤解される前に説明しなければならない。


「…俺の家が桃華の受け入れ先なんですよ」


 俺がそういうと桃華の猫耳を見て「そういうことね」と納得する。


「じゃあ、改めていらっしゃいませ。今は客もいないからゆっくり過ごしていってね」


 そう言うとカウンターへと戻っていく静さん。いつまでも威嚇状態の桃華に「行くぞ」と言って窓際の席に二人で座る。


「カフェのランチって言っても、どんなメニューがあるんですかね」


「多分、普通の店と変わらないだろ」


 メニュー表を開く。前に見た時には気付かなかったが、飲み物の欄の下にランチメニューが書いてある。

 カツ丼、親子丼、ネギトロ丼…って、何だこのメニューは!?カフェのランチで出すメニューじゃ無いだろ!しかも丼ものしかないし…


「宇津さん…、これ……」


「あぁ、分かってる。さすがにこれは── 」


「とても美味しそうです!楽しみになってきました!」


「ないよな…… って、え?」


「まさか、カフェで丼物を食べれるとは思ってませんでした!」


 引くかと思ったがまさか喜ぶとは思わなかった… 何で静さんがカフェのメニューに丼物を入れたのか分からない。しかも、丼物以外には白米と書いてものしかなく、もはや料理ですらない。

 

 まぁ、桃華喜んでいるなら良いか…と自分を無理矢理納得させて俺がカツ丼、桃華がスペシャル丼?という謎すぎるものを頼む。


「はい、承りました!少し待っててくださいね」


 そう言うと厨房に入っていく。家事が苦手なのに料理が作れるのかとは思ったが、メニュー表に書いてあるくらいだからきっと大丈夫なのだろう。…多分。



「お待たせしましたー、カツ丼とスペシャル丼です」


 しばらく桃華と話して時間を潰していると、静さんが頼んだものを持ってくる。普通のカツ丼と、…何だこれは?ご飯の上にカツ、ネギトロ、親子丼の具…etc が山盛りにのっている。おそらく全部の具が全てのっているからスペシャルなんて名前を付けたのだろう。


「わぁ、美味しそうです!」


「そうか……?」


 カツ丼は見た目は普通だが、美味しさは見た目以上で食べていて全く飽きない。

 桃華のスペシャル丼は少し見た目のゲテモノ感が否めないが桃華は美味しそうに食べているので、美味しいのだろう。


「どう?宇津くん、美味しいでしょ」


「はい、家事苦手だと思ってたんですけど料理はできたんですね」


「……いや、実は料理は丼物しか作れないんです」


「そうなんですね……」


 なんとなく分かってはいたが、静さんは家事スキルを捨てて他の才能に全部注ぎ込んでしまったらしい。丼物だけがやけに得意なのはよく分からないが…



「ぜひ、また食べに来てくださいね!桃華ちゃんも!」


 カツ丼を食べ終わりゆっくりしているうちに静さんと桃華がいつの間にか仲良くなっていたらしい。俺の話で盛り上がっているのを真横で聞くのは恥ずかしかったが、いつか桃華に静さんを紹介しようとは思ってはいたのでいい機会だっただろう。


「はい!また食べにきますね!」


「また今度来させてもらいます」


 ゴールデンウィーク中にまたくる事になるだろうなと思いながら店を出た。







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