ep.24

 俺のえ?と言う声が静かな用具倉庫の中をに響きわたり反響する。


「…いやいやいや─── 」


 そんなわけないじゃん、と言おうとしたところで橘さんが目尻に涙を浮かべ頬を紅潮させて、真剣な表情をしながらこちらを見ていることに気づいて踏み止まる。

 

 『瀬見矢くんのことが好き』その言葉が頭から離れない。あの橘さんが俺の事が好き? 男女共に慕われていて、人気な橘さんが俺なんかを?最近仲良くなったばかりの俺を?


「…なんで俺なんかが好きなんだ?」


 橘さんの真剣な表情を見ると、本気で好きと言っていることが分かる。しかし、俺には惚れられる理由が見当もつかない。


「……瀬見矢くんは忘れてると思うけど、私達、同じ中学だったんだよ。私も今みたいにみんなと喋ってる訳じゃなかった… 」


 え、と内心驚く。まさか同じ中学だったとは思わなかった。


「…中学2年生の頃、だったかな。私、いじめられてたの。…根暗とかキモイとか、今の私からすれば馬鹿じゃないのって思うようなことなんだけど、当時の私はすごく辛くて。それを見てクラスのみんなが笑ってる中で、瀬見矢くんだけが唯一いじめのこと先生に知らせてくれて…… そのおかげで、いじめられなくなって… 当時はお礼言いたかったんだけど言えなかった」


 橘さんの話を聞いてなんとなく思い出す。確かに中学生の頃、いじめっ子にうんざりして先生に告げ口したことがある。その後に逆恨みされて大変だったが。だが、まさか、そのいじめられていた子が橘さんだったとは思わなかった。


「確かにそんな事もあったような気がするけど…… あの子、今の橘さんと全く違って丸眼鏡におさげしてた気がするんだけど… 」


「そうだよ。私、昔は丸眼鏡におさげの真面目って感じだったから。瀬見矢くんがここの入試受けるって聞いたから、私も瀬見矢くんと一緒に居たくてこの高校に入ったんだ。この恰好も瀬見矢くんに好かれるために頑張ったんだよ?…まぁ、一年生のときは関わる機会がなかったけど。」


 ここまで、好かれていたとは全く気付かなった… 正直、嬉しいがやはり戸惑う。好きな理由は分かったが、俺はなんと答えればいいのだろう。流石に思ってもいないのに俺も好きでした何て返すのは相手の気持ちに対して失礼だろう。


「…ごめんね。急にこんな話しちゃって。……でも、私がくんを好きってことだけは知っててほしい」


 俺の内心が表情にでも出ていたのだろう、橘さんが気を使ってくれる。


 まさか静さんの話からこんな事に繋がるとは。そんなことを思っていると、ポケット中で何かが振動する。ん?と一瞬思ったがすぐにスマホの存在を思い出す。最初からこれで桃華に連絡とれば良かったじゃんと後悔しながら電話に応じる。


「宇津さん?ずいぶんと遅いですが大丈夫ですか?」


「いや、大丈夫じゃない。…ちょっと、用具倉庫に閉じ込められたから助けてくれ」


 俺がそう言うと、えっ!?と驚き、すぐに助けに行きますと言って通話を切られる。はぁ、とため息をつき隣をちらりと見る。

 

 橘さんがジト目でこちらを見つめていた。閉められた時すぐにスマホで呼べばよかったのに、と言われているのが目線だけで伝わってくる。しばらくその状態が続き俺の方がいたたまれなくなり、すみませんでしたと言うとふふっと微笑む。


「これからも、よろしくね。宇津くん」



 

 


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