ep.11


「 いってらっしゃい」


 桃華に弁当を渡されて送り出される。途中で村田と会い、他愛もない話をしながら登校する。

席に着き、イヤホンをして音楽聞きながら授業までの時間を潰す。


 ふと、視線を感じて隣を見る。何故か、隣の席の橘沙奈たちばなさながじっとこちらを見つめている。


「どうかした?」


「あ… えーと、瀬見矢君てさ、土曜日にショッピングモールいたよね」


 もしかして、橘さんもあの時ショッピングモールにいたのか。しかし、それがどうしたのだんだ?そう思って聞き返す。


「いたけど… それが?」


「あー、いや、美人の彼女さんいたんだなーって思って」


 どうやら、桃華と買い物していたところを見られていて桃華を彼女と勘違いしている様だった。このまま勘違いされたままでも困るので、桃華について説明するとそうだったんだぁ、と納得してくれる。


「来週からうちの高校にくるのかぁ、うちのクラスに来ないかなー」


 どうやら桃華に興味があるようだった。 


 少しの間桃華について喋っていると始業のチャイムが鳴る。また後で聞かせてね、と言うと橘さんは席に着く。

 昼休みも隣で弁当を食べながら桃華について聞いてくる。友達と食べなくてもいいの?と聞くと、そんなことより桃華の方が気になるらしい。





 ────────────────────────────────




 この日を境に橘さんと会話する機会が増えた。最初は桃華について聞かれるだけだったが、あの日から3日経つと、授業中のグループワークなどでも席が隣だからか一緒になる時が多く、普通に世間話をする程度の仲になっていた。


 まぁ、橘さんほどの美少女と数日間程喋っているとなると、あらぬ噂を立て盛り上がる人が出てくる。


 金曜日、いつもの様に登校中に村田と出くわす。正直俺が通っているのを狙っているレベルだ。


「…宇津、何か言うことはないか」


「ん?なんだよ急に」


 いつも出くわす時はテンションが高いのに今日はやけに大人しい。


「最近、橘さんとよく喋っているそうだな」


「あぁ、まぁ、隣の席だし仲良くはさせてもらってはいるな」


「……ついこの間まで、興味無さそうにしてたのに。なんで… なんで…」


 そう言って項垂れている村田。そういえば、先々週あたりに橘さんについて夢中になって語ってきたな、と思い出す。


「あー、別に好きとかじゃないから大丈夫だぞ? 別に席が隣だからなだけで席替えでもしたら喋らなくなると思うし」


 そうフォローすると、少しは元気が出たのか顔をあげる。


「…確かにそうだよな。宇津と橘さんが、つり合うわけないか!」


 村田の言い草に少しイラッとくるが、つり合わないのは本当なので我慢する。

 

 学校に着き、教室に入ると視線を感じる。さっきの今でなんとなくだが橘さん関連だろうなと思う。はぁ、とため息を溢し席に着きいつもの様に音楽を聞いて目を瞑る。


 目を瞑って、うつらうつらとしていると肩を叩かれる。振り向くとそこには橘さんが立っている。


「おはよ、瀬見矢くん」


「おはよう、橘さん」


 挨拶をして、来週の小テストやだねー、なんて何気ない会話をする。時間が進むにつれて教室内の生徒の数も増えていき、奇異な視線も増える。

 

「ごめんね、私が瀬見矢くんと喋っているから目立たせちゃって」


 突然、橘さんから謝られる。申し訳なさそうな表情をして、瀬見矢くんあんまり目立つの嫌いでしょ?と聞いてくる。


「確かに目立つのは嫌いだけど、俺はたいして気にしていないよ。逆に橘さんの迷惑になっていないかこっちが申し訳ないくらい」


 こっちは朝と昼の暇な時間が減るので感謝しているくらいだ。俺がそういうと、橘さんは安心したように笑う。


「なんか、瀬見矢くんみたいな男の人とこんなに喋るのって久しぶりで、途中から楽しくなっちゃったんだよね」


 そう言うと、部活のメンバーに呼ばれたようでまた後でね、と言って廊下に出ていく。

 

 橘さんは頬を少し紅潮させ微笑んでいた。その姿にドキッとしてしまった。顔に熱が集まるのを感じる。


 顔から熱が引くまでしばらくかかった。



 


 


 

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