いちげきひっさつの殺人事件

みなもとあるた

いちげきひっさつの殺人事件

「警部、大変お待たせいたしました。早速ですが捜査を始めたいと思います。それにしても、この現場はなんともひどい荒れ方ですね」


「やっと来てくれましたか、探偵さん。実はですね、犯人は部屋の中にいた被害者を殺すため、扉にたいあたりして鍵を破壊したようなんです」


「なるほど…だから扉がここまで破壊されているのですね。では、部屋の内部が焼け焦げているのは?」


「詳しくは分かっていませんが、どうやら犯人はかえんほうしゃ器のようなものを使って被害者を焼き殺そうとしたようなのです」


「でも、被害者の死因は焼死ではなかったと聞いていますが?」


「ええ、火力が弱かったのか被害者へのこうかはいまひとつだったようで、やけど程度で済んだようです。それを見た犯人は焼死させるのをあきらめたのでしょう。用意していた別の凶器を取り出して、再び襲い掛かったようです」


「この傷跡…遺体には複数の穴が空けられていますね。どうやら犯人は被害者にのしかかり、両手に持った二つのドリルのようなもので被害者を何度も刺したのでしょう」


「え?ドリルの攻撃を受けたのに、いちげきでは死ななかったと?」


「きゅうしょにあたったことは確かだと思いますが、ひんし状態の被害者はまだわるあがきを続け、犯人に抵抗し続けたようです。その証拠に、机の上にあったたべのこしの食品を犯人に投げつけた痕跡があります」


「では、犯人もひっかく、かみつくなどの抵抗を受けた可能性があるということですね?」


「ええ。もしそうなら被害者の爪や歯に犯人のDNAが残っているはずなのですが…」


「残念ながら、被害者の頭部や手首は犯人が切断して持ち去ったと思われます」


「この切り口は…現場に落ちていた二本の包丁ではさみ、ギロチンのように首や手首を切断したのでしょう」


「なるほど…あばれる被害者の首を刃物で切断していることから、犯人はいあいぎりの達人かもしれない、なんてうわさも流れていましたがそれは違うようですね」


「いずれにしてもかなり用心深い犯人です。そして、犯人の用心深さを示す根拠はそれだけではありません。偽装工作に使ったとみられる液体ヘリウムの容器が外のくさむらに残されていましたから」


「液体ヘリウム?どくガスのようなものですか?」


「いいえ。液体ヘリウムに毒性はありませんが、温度が極めて低くぜったいれいどに近いと言われています。液体ヘリウムを掛けられた遺体は一瞬でこおり付き、結果として我々は正確な死亡推定時刻を知ることができなくなってしまいました」


「アリバイ工作ということですね。本来ならば遺体の死後硬直から殺害時刻をみやぶることができますが、今回は死後硬直で遺体がかたくなる以前に偽装工作をされてしまったということですか」


「その通りです。この点からも、犯人は今回の殺人に周到な用意をしてきたと思われます」


「…だったら、犯人捜しはかなり難航しそうですね。容疑者の目の前に決定的な証拠をたたきつけることができれば一番なのですが」


「警部もそう思われますか…では、仕方ありませんね。ちょっと失礼」


「どうしたんですか探偵さん?急にカバンの中のもちものを漁りだして…」


「ええと、これが上から14番目だから…これを掴んで、離して、カバンを閉じて…よし」


「それって、つりざおですか?もしかして、犯人はつりざおを使ったトリックを仕掛けていたということですか?」


「いえ、これからちょっと釣りにでも行こうと」


「いまから釣り…ですか?」


「はい。これで犯人を捕まえられればいいのですが」


「…?」



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「ちょっと探偵さん!あなた犯人にいったい何をしたんですか!?犯人がじわれに巻き込まれてひんしの状態で見つかったって…」


「なに、川から釣り上げた犯人にちょっと攻撃しただけのことですよ。ただ、じしんを起こすつもりが間違えてじわれを起こしてしまったようですがね」


「川から釣り上げた…?じしん…?いったい何を言っているんですか!?」


「それにしても軟弱な犯人ですね…まあ、ドリルを使ったにもかかわらずいちげきで被害者を殺せていない時点で、犯人のレベルは低いだろうと思ってはいましたが」


「そんなことより犯人をどうにか助けないと!」


「仕方ないですね…犯人にテレポートでも覚えさせて病院に連れていきますか。さて、どうぐの上から7番目は…」


「テレポートとかふざけてる場合じゃありませんよ!いいから一刻も早く犯人を病院に連れていきますよ!!」


「ちょっと警部、今は話しかけないでください!この手順は少しでも間違えると…あっ」








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