事件

第26話 コレってどんな羞恥プレイだよ?

 ある日の朝、いつもの様に岩橋さんと並んで登校していると、珍しく和彦に背中を叩かれた。もちろん由美ちゃんも一緒だ。


「あれっ、今日は遅いな。どうしたんだ?」


 和彦がこんな時間に俺よりより後ろを歩いているなんて……驚いた俺が聞くと、和彦はバツが悪そうに答えた。


「おう、ちょと寝坊しちまってな」


 まあ、和彦も人間だ。そんな日もあるだろう。なんて俺が思っていると、岩橋さんも由美ちゃんに話しかけた。


「おはよう、由美ちゃん」


「うん、おはよう。もうカズ君ったら酷いのよー。寝坊したのなら電話ぐらいくれれば良いのにー」


 由美ちゃんは挨拶も早々愚痴を言い始めた。どうやら和彦が寝坊したのを知らなかった由美ちゃんは、暑い中健気にも和彦が来るのをずっと待っていたらしい。


「お前が寝坊とは、珍しい事もあるもんだな」


 和彦は由美ちゃんと付き合い始めてから俺よりかなり早い時間に由美ちゃんと登校する様になっていた。理由は言うまでも無かろう、俺が登校して来るまでの時間を由美ちゃんと二人で居る為だ。


「ああ。やっちまった。当分由美に頭上がんねぇわ」


 話しながら歩く俺と和彦の後ろを岩橋さんと由美ちゃんが並んで歩いている。


「彼女持ちも大変だな」


 言いながらチラッと振り返って後ろの二人を見た。しかし、こうやって岩橋さんと由美ちゃんが並んでいるのを見ると、同級生だと言うのに雰囲気が全然違って見える。もちろん別の人間だから違うのは当たり前なのだが、何と言うか……そうだ、制服だ!


 同じ学校の制服だから同じ筈なのだが、何かが違う。その違いは……スカート丈だ!


 由美ちゃんのスカートは腰で折っているのだろう、膝上十五センチといったところだろう、太腿が半分程露出しているミニスカートっぽくなっている。それに対し岩橋さんのスカートと言えば標準丈って言うのか? 膝が見えないぐらいのいかにも真面目そうなスカートの長さだ。


 昔はスカートを短くするなんて一部のギャルぐらいしかしてなかったらしいが、今ではそれが逆転し、一部の真面目な女子だけが岩橋さんの様に標準丈のままのスカートを履いているのだ。嘆かわしいやら嬉しいやら。


「それ、私も思ってた」


 それに気付いた俺が口に出して言うと、由美ちゃんはあっさり言った。そりゃ、スカート丈の違いぐらいちょっと見れば判るよな。


「どう、沙織ちゃんもやってみたら? やっぱり女の子は可愛くなくちゃ」


 言うや否や由美ちゃんは岩橋さんのスカートを摘まみ上げた。


「きゃっ」


 膝小僧が露わになった瞬間、岩橋さんは声を上げ、スカートを押さえた。


「大丈夫よ、パンツまで見せるわけじゃないんだから」


 由美ちゃんが言うが、岩橋さんは首をぶんぶん横に振って全力で拒否している。


「お前がいきなりスカート捲るからだろ」


 和彦が由美ちゃんに冷静な突っ込みを入れた。そりゃいきなりスカート捲られたら誰だってびっくりするよな。

 すると由美ちゃんはとんでもない事を言い出した。


「じゃあ岩橋さん、自分でスカート上げてみてよ」


「ええ~~~~っ!?」


 思いっきり恥ずかしそうに声を上げる岩橋さん。そりゃそうだ。所謂『スカートたくし上げ』をいきなり要求されたのだから。しかも通学路で。これってどんなプレイなんだ?


「大丈夫よ。パンツまで見せろって言うんじゃ無いんだから」


 ついさっき聞いた様なセリフを繰り返す由美ちゃん。俺は心の中で叫んだ。


 ――マーベラス! ―― 

 

 そして心の中で由美ちゃんに称賛の拍手を送った。なにしろえっちな画像の人気ジャンルの一つに挙げられる『スカートたくし上げ』が今から目の前で行われようとしているのだ。これで喜ばない健康な男子など世界中どこを探してもいないだろう。


 由美ちゃんのリクエストと言うか強要に答え、岩橋さんがスカートを摘み、少しずつ上げていく光景は妙に艶かしく思えた。スカートの裾が膝小僧を越え、太腿が少し顔をのぞかせた時


「やっぱり無理!」


 岩橋さんはスカートを手で押さえてしまった。頬を赤くしながらスカートを押さえる岩橋さんの姿、ごちそーさまです。なんて言ってる場合じゃない。


「まあ、岩橋さんには岩橋さんのやり方があるんだから無理しなくて良いと思うよ」


 俺は一応フォローのつもりで言ったんだが、何だよ『岩橋さんのやり方』って。だが岩橋さんは変わろうとしている、いや、実際に変わりつつあるんだ。少々の荒療治も必要なのかもしれないじゃないか。

 そこで俺は一歩踏み込んだ行動に出た。


「足を出すのが恥ずかしいなら、やっぱり顔を出してみたらどうかな?」


 岩橋さんの前髪を思い切って上げてみたのだ。俺もまた随分と大胆な行動に出たものだが、これが間違いだった。以前、由美ちゃんは岩橋さんの前髪を軽く左右に分けただけだったが、調子に乗った俺は思いっきりアップにと言うか、大胆におでこを出す形で上げてしまったのだ。


 その結果、俺は見てはいけないものを見てしまった。岩橋さんが頑なに前髪で顔を隠していた理由を。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る