第15話 上手い具合に岩橋さんと二人っきりに?

 テーマパークと言えば外せないのが絶叫マシーンだ。そう言えばテレビでも宣伝やってるよな。だが、それに乗ろうという話になった時、皆はノリノリだったが岩橋さんだけは顔を曇らせた様な気がした。

 そうか、岩橋さんは絶叫マシーンが苦手なんだな。ちなみに俺は絶叫マシーンが大好きだ。だが今はそんな事を言っている場合では無い。ここで俺が取るべき行動は一つしか無いだろう。


「俺、高いトコ苦手なんだよな。俺は遠慮するけど、みんな行って来いよ」


 俺が臆面も無く言うと岩橋さんは恥ずかしそうな声で言った。


「実は……私もこういうの、苦手で……」


 よしっ、俺の取った行動は大正解だ。由美ちゃんを始めとする女の子達は「じゃあ他の乗り物にする?」などと岩橋さんを気遣っているが、男共(和彦を除く)は「乗りたくないなら無理に乗らなくても良いんじゃね?」とか

「乗りたい者だけで乗りゃぁ良いじゃん」などと軽くあしらう様に言ってやがる。誰が誰を狙っているのかは知らんが、ともかく三人共岩橋さんの事は眼中に無い事だけは確かな様だ。まあ、これは俺にとって実に好都合なんだけど。


「じゃあ加藤君、沙織ちゃんをよろしくね」


「待ち時間入れて一時間ちょいってトコか。二人でブラブラして来いよ」


 機を見計らって由美ちゃんがウィンクしながら言うと、和彦も何か楽しそうな顔で言った。

 その言葉で俺と岩橋さんを除いた八人は絶叫マシーンの列に並ぶ事が確定した。という事はつまり、和彦と由美ちゃんは俺と岩橋さんが暫くの間二人っきりになるチャンスを作ってくれたんだ。もっとも『二人っきり』と言っても登校中はいつも岩橋さんと二人なんだけど……だが、ココは通学路じゃ無くテーマパークなんだ。『テーマパークで二人っきり』という事は『デート気分を味わえる』って事なんだぜ……岩橋さんもそう思ってくれるという保証は無いけどな。


「おう、終わったら電話くれよな」


 和彦に連絡を頼んだ俺は岩橋さんと二人、絶叫マシーンの順番待ちの列に背を向けた。絶叫マシーンに乗れないのは痛いが、これからの二人っきりの時間を考えると些細な事だ。

 さて、どのエリアに行こうか……やっぱりファンタジー系が良いのかな? などと考える俺に岩橋さんが申し訳なさそうに言った。


「ごめんなさい、加藤君。本当は乗りたかったんでしょ?」


 まさか岩橋さんまでエスパーだったとは! なんてな、ちょっと見え見えだったかな。だがまあ、俺の気持ちは届いただろう、後は良いムードに持って行くだけだ……って、まあ、それが非常に難しいんだけどな。


「いや、岩橋さんが謝る事じゃ無いよ。そんな事より、ドコか行きたいエリアとかある?」


 俺が園内マップを広げると岩橋さんはそれを覗き込む様に顔を近付けた。ああ、帽子のツバが邪魔だ。岩橋さんが帽子をかぶっていなかったらもっと近付けて、岩橋さんの髪の香りが楽しめるのに……なんてバカな事を俺が考えているなどとは夢にも思っていないのだろう、岩橋さんは園内マップの一点を指して顔を上げた。


「『にやんふらわあガーデン』に行きたいな」


 そう言った岩橋さんの唇は俺の顔から30センチも離れていないだろう。近い、顔が近いよ岩橋さん。岩橋さんの笑顔を間近にしてドギマギする俺に岩橋さんの頬が赤く染まった。


「ご、ごめんなさい」


 顔を真っ赤にしてまた謝る岩橋さん。『ごめんなさい』だなんてとんでもない、寧ろご馳走様です。絶叫マシーンに乗るより何倍もドキドキさせてもらいました。


 それにしても『にゃんふらわあガーデン』か。『ガーデン』と言うからには花畑か何かだろうか? まさかあの奇妙なマスコットがうじゃうじゃ居るんじゃ無いだろうな? まあ、岩橋さんと一緒なら別にドコでも良いんだけど。


 園内マップで現在地と『にゃんふらわあガーデン』の位置関係を確認すると、結構離れているみたいだが、一時間もあれば行って戻って来れるだろう。それに、もし時間がかかったところで和彦から電話がかかってきた時に謝れば良いだけの話だ。


「あっちの方だな。じゃあ、行こうか」 


「うん!」


 俺の声に笑顔で応える岩橋さん。これって、マジでデートっぽくないか? 手でも繋いでみるか? って、そんな勇気ある訳が無いだろ。俺と岩橋さんはいつもの様に並んで歩いた。


 さすがは大人気テーマパークだけあって、園内はどこもかしこも家族連れやカップルで大賑わいだ。普段なら幸せそうなカップルを見て羨ましげに溜息を吐くしか無いところだが、今日の俺は違うぜ。何しろ岩橋さんと二人なんだからな。知らない人から見ればカップルに見え……れば良いのにな。


 しかも岩橋さんは前髪で顔を隠しているのがもったいない程の美少女なんだ。もしかしたら俺は今日のGSJの入場者で一番幸せな男かもしれない。チラっと岩橋さんの方を見ると、俺がそんな事を考えているとは夢にも思っていないであろう岩橋さんはにっこりと微笑みを返してくれた。やっぱり俺は幸せ者だ。




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