第14話 テーマパークと言えばキャラクターとの記念写真だよな

 少し立ち話をした後、メンバー全員が揃ったという事で早速出発する事になった。

切符を買って、ぞろぞろわいわいと改札を抜け、ホームで電車を待つ。勝負は既に始まっている筈なのだが、男同士・女の子同士で固まっていた五人と五人はバラける事無く、そのフォーメーション(って言うのか?)のまま電車に乗った。


 電車に乗った後も、男は男同士、女の子は女の子同士で固まったまま何と言う事も無い話をしている。もちろん俺も含めてだ。えっ、せっかく女の子と一緒なのに何でまた男女別に分かれてるかって? そんなもん決まっているだろう、ココで焦って下手を打つと後々の展開に響くからだ。ほら、男同士でバカ話をしながらも三人は横目でチラチラと女の子の方を覗ってるぞ。さて、誰が誰を狙ってるんだ? まあ、正直どうでも良いけど。

 女の子達はと言えば男共がチラチラ見ているのを気付いていないのか、或いは気が付いてはいるものの敢えてこっちを見ない様にしているのかはわからないが、とにかく何か盛り上がっている。まあ、GSJなんて中々行けないから無理も無いか。

 

 とか言ってるうちに、そんな俺達は電車を何度か乗り換えて無事GSJに到着した。


 改札を出た瞬間、目の前に広がる景色に否が応でもテンションは上がり、一瞬今日の趣旨を忘れそうになってしまう。だが、ココではしゃいでいる場合では無い。そう、今日はただ単に遊びに来たのでは無いのだ。

 大事なのは岩橋さんと親睦を深める事、それは俺以外の三人も同じ事だ。さあ、誰が一番に動くものやら……?


 入場ゲートの前に出来ている長い列に並ぶ際に、まずは由美ちゃんが動いた。女の子の輪から抜け出して和彦の隣に並ぼうとしたのだ。もちろん由美ちゃんは和彦の彼女なんだから『動いた』という表現は正しく無い。『動いた』のでは無く、『動くきっかけを作ってくれた』のが正しい物の見方だ。


 さあ、どうする? 俺も岩橋さんのところに……と思った時だった。驚いた事に岩橋さんが由美ちゃんの後を着いてこっちに来たのだ。

 いや、別に驚く事では無いか。岩橋さんはココに居る三人の男共とは、ほとんど話をした事が無いのだ。そして由美ちゃんの友達三人は俺に興味が全く無い。それはそうだろう、俺が岩橋さんにご執心なのはバレバレだろうからな。もっとも元々俺は女の子に人気は無いんだけどな。しかも三人の男共は岩橋さんが美少女だと知らず、ただの内気で暗い女の子としか思っていないのだ。


 そんな訳で俺と岩橋さんが一緒に行動するのは所謂『出来レース』みたいなモノなのかもしれない。もちろん『場を荒らす』ヤツが出て来なければの話だが。

 まあ、そんなヤツはいないとは思うし、寧ろ岩橋さんが俺の隣に来た事で言い方は悪いが『岩橋さんを俺に押し付けられてラッキー』なんて思っている事だろう。知らぬが仏とはよく言ったもんだ。いや、ちょっと違うか。


 俺が喜んで岩橋さんが並べる様にスペースを開けると、岩橋さんは軽く会釈をして俺の隣に並んだ。後ろで三組の男女がどう並んでるかなんて、もうどうだって良いや。なんたって俺の隣には岩橋さんがいるんだからな。


 並ぶ事数分、無事入場した俺達を迎えてくれたのはネコ……なのか? それともライオン? 悩む俺に岩橋さんが教えてくれた。


「加藤君、この子は『にゃんふらわあ』って言ってね、GSJの公式キャラクターなんだよ」


 公式キャラクター? この奇妙なモンスターが? 良く見れば、ネコの顔に鬣では無く花びらみたいなのが付けられていて、ご丁寧なことに手には葉っぱらしきモノを持っている。

 もしかしてアレか? キモかわいいってヤツを狙ってるのか? しかしとても人気がある様には見え無いぞ。大丈夫か、GSJ? 


「岩橋さん、写真撮ってあげるよ」


 俺はジーンズのポケットからスマホを取り出した。本当は岩橋さんと俺の二人で写真を撮りたかったのだが、それを言い出す勇気は無かったのだ。だがまあ俺のスマホに岩橋さんの画像データが残る訳だから、それだけでも善しとしておこう。


「じゃあ撮るよ」


 岩橋さんが『にゃんふらわあ』の隣に立った2ショット写真を二枚撮った時、和彦と由美ちゃん以外の六人がフレームになだれ込んで来やがった。早い話がみんなで集合写真を撮ろうって事だ。


「しょーがねーなー」と思いながら二枚程写真を撮り、次は俺も入って誰かに写真を撮ってもらおうとしたのだが、さすがは公式キャラクターなだけあって、あんな奇妙なモンスターでも人気はあるらしく他のグループが押し寄せて来て、俺達は撤退せざるを得なくなってしまった。つまり、俺は写真を撮ってもらえなかった訳だ。


「ドンマイ」


 離れて見ていた和彦が俺の肩を叩き、由美ちゃんはクスクス笑った。まあ、正直言ってあんな訳のわからんキャラクターに未練など毛ほども無いが、岩橋さんと一緒に写真を撮れなかったのは心残りだ……って、いや、まだチャンスはある、勝負(何の?)は始まったばかりなのだから。




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