第15話 聞き取り調査

 さて……。無事に俺の腕もトランスフォームしたところで作戦を実行に移す。


 昼休みはまだ半分残っている。


 この半分の時間を使ってカスミと共に南志見と仲の良いサッカー部員を探す。

 

 うん。割と簡単に一人見つかった。てか、そりゃ同じ学校の生徒なんだから、簡単に見つかることができるわな。


 南志見と仲の良い男子は堤と一緒に楽しそうに談笑していた。


「こちら蓮太郎。佳純嬢。応答を。オーバー」

「こちら佳純。オーバー」

「ターゲットを二組にて発見。オーバー」

「オーバー。──って、これってなにしてんの? レンレン」


 二組の教室前で、カスミと隣合わせでやりとりをしていると、ようやくカスミがツッコミを入れてくれる。


「こういうのって雰囲気大事じゃん」

「私は雰囲気よりも面子が大事だよ! 通り過ぎる人みんな変な目で見てるよ」

「安心しろカスミ。あれは『うわぁバカップルがいるわぁ』の目だ」

「か、カップル」


 キュンとなるカスミは、モジモジとする。


「わ、私たちって、カップルに見られてるの?」

「ふっ。愚問だな。俺はビッチにもてあそばれているモブCと言ったところか」

「ビッ!?」


 思いっきり足を踏まれる。


「ぐおっ!」

「ばかっ! レンレンのばかっ! あほっ!」

「発言が幼稚」

「レンレンの発言はセクハラだよ!」

「ふっ……。カスミ。覚えておけ。我々の業界では、これはご褒美だ」


 言うと、心底ゴミを見る目で見られる。


「そんなことより、いたよ。南志見くんと仲が良いサッカー部の男の子」

「だな」

「ど、どうする?」

「カスミ。キミに決めた!」

「わたしモンスターの方じゃないよ!? トレーナーの方だよ!?」

「髪型もどこか似ている気がする」

「そこも違うよ! 私、髪の毛括ってない!」

「よしっ! ナイスツッコミ! そのテンションで──突入!」

「あ! 待ってよ! レンレン!」


 俺が、どかどかと二組の教室に入って行くと、後ろをカスミが付いてくる。


 堤とサッカー部員の前に立つと「お、高槻」と堤が俺に手をあげる。


「おい、トイレみたいな奴」

「開幕第一声がハッチャケすぎだろ」

「聞きたいことがある」

「お、おう」

「お前じゃねぇよ! お前は早くウォッシュレット付けろ!」

「付いてないタイプなの!? 俺!?」


 つまらない堤は置いておいてサッカー部員を見る。

 近くで見るとガタイが良い。間違いなくセンターバックだな。


「え? もしかして俺? 俺がトイレみたいな奴?」


 困惑しながら言ってくるサッカー部員。この人ノリの良い人だ。

 だから笑いながら言う。


「初対面なのにごめんなさい。ガタイが和式だったもので」

「和式て! 堤より下かよ!?」

「ふっ。佐藤。お前は俺より下だ」


 堤が調子に乗っているので言い放つ。


「お前は黙ってろ。う○こ」

「都落ちかよ」

「そもそも都でもねぇよ!」


 そんなやり取りで場があたたまったところで本題に入る。


「それでさ佐藤」

「ん? 俺のこと知ってんの?」


 いや、堤が言ってたし、とか言うと面倒なので知ってることにしておこう。


「話があるんだけどさ」

「高槻が俺に?」


 そういうあなたこそ俺のこと知ってんだなと言うと話が進まないから、先程から後ろに控えているカスミを投入する。


「話しがあるのはこのビッチ風味の女子だ」

「ちょっと!? その紹介の仕方!」


 カスミの投入に堤が、こんな子この学校にいたか? と俺を見てくる。

 佐藤は少し顔を赤らめていた。


「お、俺に聞きたいことって……?」

「えとえと……そ、その……」


 カスミは俺をチラリと見てくる。

 なにを動揺しているんだコミュ力お化け。


 ──いや、違う。これはカスミの作戦。


 こうやって恥じらいを見せることによって佐藤という、サッカー部に所属しておりながら『俺は純粋にサッカーが好きでモテたいからとかじゃないから。俺は仲間と共にサッカーしたいだけだ!』とかいいそうな、実際に女子に喋りかけられたら『でゅへへ』としてましう、女に免疫のない童貞をコロす気だ。


「でゅへへ」


 うわ。まじで言った。本当に言う奴いるんだ。

 

 やはりビッチ。男を見れば反射的に自分に惚れさす。やはりビッチ。底知れないぞビッチ。


「えと……。す、好きな食べ物はなんですか!?」

「好きな食べ物? お、俺は……ケバブかな……」

「け、ケバブ……。あ、あの……その……好きな色はなんですか?」

「い、色? 色? 色……。蒸栗色」

「む、むし……? むしくり? え、ええっと……。す、好きな──」

「下手くそな合コンかっ!」


 限界が来てツッコミを入れてしまう。


「だ、だって……レンレン……」


 泣きそうになるカスミを見て俺は佐藤を睨む。


「ちょっとあんた! ウチの娘泣かしてどういうつもり!?」

「お、俺!?」

「そうよ! なによ!? 好きな食べ物ケバブって!」

「こ、個性を出そうとして……」

「モテようとしないでよ! しかも、好きな色が栗とリス色て! 卑猥よ! なんてこと言うのよ!?」

「言ってないわっ! 蒸栗色だよ!」

「一緒だわさ!」

「全然色が違うわっ!」


 そんなやり取りを見てカスミが「うわーん! まともな男子がいないよー」と泣きついてくる。


「おー。よしよし。おーよしよし。もう怖くないからねー」


 役得でカスミの頭を撫でてやる。


「レンレン……代わってよ……。訳わかんないよ……。なんなの? 栗とリス色って……。意味ぷーだよ」


 まじな顔して言ってくる彼女の目に曇りはない。もしや、ビッチな見た目なのに知らない……。そんなバカな……。ギャップ萌えすぎるだろ。


「やい佐藤! 初対面の女子泣かして。いーけないんだ! いけないんだ!」

「初対面の奴に小学生ノリで来るお前凄いよ。疲れたよ……」


 佐藤が肩を落とすと堤が、ポンと彼の肩に手を置いてゆっくり首を横に振った。


 それを見て悟ったらしく、ため息混じりで聞いてくる。


「で? なんだよ? 結局話しってなんだよ?」

「じゅちゅわぁ。おりいってぇ。しょーだんがぁ」


 体を、クネクネさせていると呆れた顔をされる。


「あのさ。ふざけてんなら、俺も高槻に話しというか、聞きたいことがあんだよ」

「ん? そうなのか?」


 初対面なのに聞きたいことがあるとはなんだろうか。

 クネクネするのをやめる。


「高槻って……。小山内さんと付き合ってるのか?」


 それを聞いて俺は反射的に堤を見てしまう。


 確か、よくそれを聞かれると言っていた。それが本当だと実感した瞬間だ。


「いや、付き合ってないよ。だけど……ごめん佐藤」


 俺は思いっきり頭を下げると「は?」と聞こえてくる。


「俺はこういう美少女にしか興味ないんだ!」


 そう言ってカスミを前に出す。


「え? えええ!?」


 カスミが、あたふたしているのを無視して続ける。


「ごめん佐藤。だから……佐藤の気持ちに答えられない。ほんと、ごめんな」

「お前じゃねえよ!」

「安心してくれ。ワンチャンもない。正真正銘のごめんなさいだ!」

「マジでフラれた感じ出すのやめろ!」


 佐藤が言ったあとに「すげー調子狂う」と頭を、ガシガシかいている。


「あはは。冗談だって。あ、小山内さんと付き合ってないってのは本当な」

「あ、ああ。マジな回答か。あ、うん。ありがとう」

「でも? なんでそんなこと聞きたかったんだ?」

「いや……。その……」


 佐藤の歯切りが悪くなったので「ははーん」とわかったフリして聞いてみる。


「さては、小山内さん狙いか?」

「い、いや! 俺じゃ──」

「安心しろ。ワンチャンもない」

「そこはワンチャンあって欲しいわっ! じゃなく! 俺じゃなくて!」

「ん?」


 俺が問いかけると視線を逸らして「いや」と声を漏らしたあとに「な?」と話しを変えてくる。


「結局、ほんとにさ。俺に聞きたいことってなんなんだ?」


 圧倒的話題変更。しかし、これはありがたいので、普通に乗っかることにする。


「あはは! 堤から聞いてな。佐藤って面白い奴がクラスにいるって。だから喋ってみたくて」


 堤を見ると「俺、そんな事言った?」って言いたそうな顔をしてくる。


「おい便器! 佐藤めっちゃ面白い奴だな!」

「便器て!」


 とりあえず適当に言っておいて、うやむやにしておこう。


「お、おおん。そうなんだ」


 佐藤は、悪くないと言った表情をしていた。


「そうそう。これで二組にも知り合い増えたから来やすくなったわ」



 キーンコーンカーンコーン。


 俺のセリフの後、昼休み終了の鐘が校内に鳴り響く。


「おっと。時間か。ありがとう佐藤。初対面なのにこんなノリに付き合ってくれて」

「お、おお。ま、こういうノリは嫌いじゃないからな。楽しかったぜ」

「あはは。またな」

「でも、二度と来んな」


 そうやって手を振って、一応堤にも手を振っておく。

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