第14話 結果報告

「今日二人に来てもらったのは他でもない」


 文芸部の部室。よもや、俺たちの部屋と化した部屋にカスミと小山内さんを昼休みに呼び出した。


 なんか、提督風に長机へ肘付いて、意識的に声を低くして話し始める。


「この前の件だが──」


 結局、昨日は小山内さんからL○NEが来なかったため、今日残念な報告を直接しないといけなくなった。

 非常に言いづらい……。


「あいつは黒っぽい」


 まぁ確証はもてないけどな。


 俺の発言に二人は声を合わせて「黒……」と漏らす。


「小山内さん。南志見拓磨はあの後、イロンに赴き、あろうものか、だっせぇ制服着た美少女と待ち合わせをしていた。そして、俺の追跡に気が付いた彼らは、木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中という高度なテクニックを見せつけて、俺の追跡を逃れた」

「た……拓磨……」


 小山内さんは少し泣きそうな顔をしていた。それはまるで、浮気の現場を目撃した新妻のように。


「あの」


 カスミが手をあげてくる。


「なんだ? 南志見の処刑の方法か? 安心しろ、百八パターンほど考えてある」

「煩悩の数!?」

「あいつは俺たち男子の夢を持ちつつも、その禁忌を破った。ハーレムという禁忌をな。よって、奴は煩悩の数の処刑を経験しなければならない。それがゴ○ルドエクスペリエンスレク○エムだ」

「ラブコメなのにチートスタ○ドはあんまりだよ」

「ラブコメだからこそ、最強のス○ンドなのだよ。徹底的に奴には教え込まないとな!」

「いや! てか違うから! そういうこと言いたいんじゃないから」


 カスミが本来言いたいことを発言する。


「それって本当に彼女なの?」

「ぬ?」

「いや……チラッと見えた──」


 コホンと咳払いをして言いかえる。


「その……い、妹さんとか?」

「妹? やれやれだぜ……。カスミよ。これ以上奴にラブコメ要素があるわけないだろ。詰め込み過ぎだぜ」


 俺がエア帽子のツバを深く被り直すと「あ」と小山内さんが俺を見る。


「拓磨妹いるよ。一個下の。ださい制服の学校通ってる」

「なっ!?」


 俺は心底変な声が出る。


「二人仲良いから、よく出かけたりしてる」

「さ、さ……」


 体全体がピクつく。腹の底から炎が巻き起こる。


「レンレン?」

「裁くのは俺のス○ンドだああああああ!!」

「さっきまで五部だったのに、いきなりの三部!」

「やかましいぞっ! このアマッ!」

「うわぁ。レンレンが言ってもかっこよくない。名前も郎しか被ってないもんね」


 カスミに正論を言われてクールダウンする。


「てか小山内いいい! そういうことは早よ言わんかいっ!」

「あははー。ごめんね」

「可愛いから許す」


 そう言うと、カスミが少し頬を膨らませてこちらを睨んでいる気がした。


「カスミ。わかるぞ。あいつの敗因はたった一つのシンプルなものだ。あいつはラブコメを詰め過ぎた」

「そういうことじゃないけど」


 プイッと顔を逸らしてくる。うん。可愛いね。


「ね? 小山内さん。ここ最近の南志見くんの行動から、南志見くんに彼女さんはいないんじゃないかな?」

「うぬ。彼女持ちの奴が妹とイロン歩くとかしないと思う」

「そ、そうかな……?」


 小山内さんの不安はまだ拭えきれていないみたいだ。


「そうさな……。周りが南志見に彼女がいないと証言しているのを証明するために尾行していた。結果としては今のところ彼女らしい人物がいない。でも可能性がゼロではないし、好き避けの可能性も拭い切れてない」

「材料が不足だねー」


 机に、ヘタァっとなりながらカスミがため息を吐く。


「だが次のステップに進む」

「次のステップ?」


 カスミが首を傾げるので説明する。


「尾行はやめて周辺調査に移行だ」

「具体的になにをするの?」


 カスミが聞いてくる。


「聞き取りだな。尾行の結果、サッカー部の全員と仲が良い。寄り道していたメンバーとは特に仲が良さそうだ」

「なるほど。あのメンバーからなら有力な情報を得られるかも」

「だろ?」

「でも、レンレン。サッカー部の人と仲良いの?」

「ふっ。全然知らん」

「だよねー」


 俺は小山内さんに話しを振る。


「小山内さんはサッカー部の連中に知り合いはいる?」

「うん。いるにはいるけど、拓磨以外はあんまり仲良くないかな」


 南志見一筋小山内さん。幼馴染の鏡だな。


「有力な情報が入ることを祈るか」

「どうするの? 喋ったこともない人から情報を得るなんて」

「なにを言ってるんだコミュ力お化け。お前が行くんだよ」

「わ、私!?」


 自分を指差して首を横に、ぶんぶんと振る。


「むりむりむりむりむりむり!」

「いやいや。お前の最強スキル『コミュ力』を生かす良い機会じゃないか」

「私、人見知りだから! 初対面の男の子に喋りかけるなんて無理だから」

「なにを寝言を言っとるんだ。初対面の俺に、ガッツリ喋りかけてくれたろ?」

「そ、それは──」

「ぬ?」

「れ、レンレンは──の男の子じゃないもん!」


 そう言うと小山内さんが、ぷすっと笑う。


「まぁ確かに……。高槻くんは男として認識できないよね」

「おいい! おまっ! は、はあ!? それを言ったら小山内さんだってロードローラーでひかれたみたいなおっぱい──」


 ガシッと俺の腕を握ってくる。


「おい……。あんた今……私の乳のことなんてった?」

「そ、それは──」

「私の乳にケチつけてムカつかせたやつぁゆるさねえ。私の乳がまな板に梅干し乗せただけだと……ああ!?」

「意外! その梅干しは黒ずんでいた!」

「ピンクじゃ! ぼけええ!!」

「うぎゃああ」


 俺の腕が変形したと錯覚するほどの痛覚。


「意外。小山内さんは四部派」


 カスミの声を最後に俺の意識はとんだ。


 最近の女子も少年漫画読んでるよね……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る