第3話 停学を回避するために③

「えっとね。相談の内容は、さっきも言ったんだけど、恋愛相談なんだよね」

「恋愛ね……」

「あはは……。高槻くんには無縁っぽいよね……」


 そう言ったあとに上牧佳純は自分の手を口にもっていく。


「あっと……」

「ま、自分でもわかってるから気にしてねぇよ。好きに言ってくれや」


 可愛いからすぐ許せちゃう。


「あ、あはは……」

「でも、上牧さんなら恋愛経験とか豊富なんじゃないの?」


 そういうと腰に手を当てて、大きい胸を象徴する。


「自慢じゃないけど──ない!」

「モテそうなのにな」

「え? そ、そうかな? え、えへへ」


 可愛く照れる。


 なに、この子。本当に初対面? コミュ力お化けって初対面感皆無だよな。すごいよね。


「なるほどね……。童貞と処女が恋愛相談を受ける側。ウケるな……」

「ちょっと! ナチュラルに下ネタ言わないでよ!」

「あ、ごめん。なんか、上牧さんって初対面感なかったから」


 そう言うと、少し怒ったような表情をみせる。


「なにそれ。褒めてるの?」

「大いに褒めてるぞ。凄いなぁって尊敬できる」

「え、えへへ。私って凄いんだ」


 あ、こいつチョロいわ。


「それで? 恋愛相談ってのは? ──そもそも、それって俺に言っても良いのか?」

「あ! それもそうだよね。確認するよ!」


 上牧佳純は制服のポケットからスマホを取り出すと、電話をかけた。


「あ、ちわちわー。うん。──あの件なんだけど──そう。──男子──。五組の──うん」


 途切れ、途切れ聞こえてくる会話のあとに、電話を切ると、ニコッと笑ってオッケーサインを出す。


「誰にも言わないならオッケーだって」

「ふぅん。あっさりだったな」

「ま、私達は守秘義務があるからね。破ったら退学だって富田先生が言ってたよ」

「重いな」

「他人のプライベートを知るんだから、それくらいは当然かなって思ってる」

「義理堅いね。──それじゃあ説明を頼める?」

「あ、だよね。説明するね」


 言って、上牧佳純は先程から見ていたノートを手に取り、パイプ椅子を持って俺の隣にやってくる。


 あーめっちゃ女子の匂いする。やばい。こんなの恋しちゃう。


「高槻くん?」

「はじめてくれ」


 女子の匂いを嗅いでいるのを隠すように冷静に言うと、なんの疑いもなく説明を始めてくれる。


「依頼主は小山内円佳(おさないまどか)さん。私達と同じ二年生だよ。そして、小山内さんは同じ二年生の南志見拓磨(なじみたくま)くんが好きみたい」


 ノートには『小山内円佳』と丸印で書かれて、そこからピンクの線の先に『南志見拓磨』と書かれていた。

 一人は見知った名前で、もう一人は初めて見る名前だった。


「二人は、家が隣同士の幼馴染なんだって」


 あいつ、そんな立ち位置なの?


「そんなラブコメな関係性ってリアルにあるんだな」

「あ、あはは……。だよねー」

「普通なら幼馴染の恋ってのは実らない……よな」

「ちょっと、ちょっと。レンレン? それは言っちゃだよだよ」


 おいおい。そのアドベンチャーなワールドにいそうなパンダっぽいあだ名は俺の昔のあだ名じゃないかよ。なに? 俺ってそんなかんじなの? パンダなの? 俺、パンダキャラなの?


「あ、や、その……。い、いきなりごめんなさいっ!」


 慌てて頭を下げられる。


「いやだった?」


 上目遣いで言ってくる。

 普通に可愛い。


「いきなりあだ名だったから、ちょっとびっくりしただけだよー。レンレン全然おっけー」

「だ、だよねー。あはは」


 笑ったあとに、少し焦って説明してくれる。


「お互い同じ目的を目指してる仲間だし、くん付けは距離あるかなぁって」


 なに、このコミュ力のお化け。底無しなの? まだ出会って数分だよ? 


「それもそうだな」

「私のことはカスミンと呼んでくれたまえ」

「カスミン」

「あ、ごめんなさい。やっぱりレンレンに呼ばれるとキツイです。精神的に」

「いや、自分でもイケメンには分類しないってわかってるけど、そこまで言われるキャラでもないって」

「え? そうなの?」

「傷つくわ。酷く傷つくわ」

「あはは! うそうそ。でも、やっぱりちょっと恥ずかしいから、普通にカスミって呼んで」

「あ、ああ」


 女子を下の名前で呼ぶのは抵抗があるのだが、なぜだろう。いや、普通にコミュ力のお化けだからだろうな。彼女は呼びやすい。


「話しを戻すけどさカスミン」

「あ! やめてって言ってるのに!」

「ばれた?」

「バレバレだよ!」


 んもー、なんて、軽く頬を膨らませる彼女の姿は素直に可愛かった。


「まぁ、話しを戻すけどさ。挿入式も貫通式も終わってない俺らに幼馴染の恋愛なんて荷が重すぎないか?」

「挿入式? 貫通式?」

「童貞も処女も卒業していない俺達にこんな相談は無理だろうって話しだ」

「もうレンレン! また下ネタ! それに私が処女って決めつけないでよ」

「え? そうなの? 恋愛したことないのに? ビッチなの? なるほど。性欲が関係して退学になりかけていると?」

「は、はあ!? ち、違うから! そんなんじゃないから!」

「じゃあなに?」

「そ、それは……その……」


 モジモジと恥ずかしそうにして、指をつっつく。


 そして意を決して言い放った。


「成績が……ヤバかったから……。その……」

「なるほど。そこを揺さぶられたと?」

「うん。本当は留年かもだったけど、先生の手伝いをしたら内申点アップで進級できるって言うからね。引き受けたら留年は阻止できたんだけど……。途中でやめたりしたら退学だって言われて」

「パワハラやん」


 しかし、あのヤーさん先生の弱みゲッチュ。これは揺すりネタができたな。


「レンレンは? どうして停学になりかけたの?」

「俺か? 俺はバイク乗ってるところ見られてな。バイクの免許は校則で取っちゃいけないらしい」

「バイク!? へえ! すごーい。大人ー!」

「へへ。まぁな」


 俺を見る目が、純粋な子供のような目だったので照れて鼻をかいてしまう。


「でも、バイク乗ってるのバレて停学になりかけるってダサいね」

「なっ──!? それを言えば、カスミの理由のがシンプルにダサいだろうが」

「そ、そんなことないもん! カッコつけてない分、マシだよ!」

「はあ!? カッコなんてつけてませーん! 意味わかんないですー! シンプルに頭悪い方がださいですー!」

「そんなことないもん!」

「あるっての!」

「はあ?」

「はあ?」

「なんたら」

「こうたら」

「どうたら」

「そうとら」

「──って! 話しがまた脱線してる!」


 カスミが言い放つので今度こそ本題に戻る。


「その相談の進捗は?」


 この部屋に入った時の彼女の発言から皆無だと思われるが、一応聞いてみる。


「……てへっ」


 あざとっ。ふるあざとい。だが、それで良い。それが良い。


「全然と……。いつもはどういう方向性でいってるんだ?」

「いつも?」

「前の相談とかはどんな感じでこなしたんだ?」

「あー……。そういう意味か……。えとえと……。ええっと……。今回が初めての依頼……だよ」

「そうなん?」

「うん」

「そうか……」


 俺は腕を組んで考える。


「情報はこれだけか?」

「だって今日の昼に言われたからね」

「新規中の新規かよ」


 そう言って俺は立ち上がった。


「それなら、ここで話し合っても始まらない。明日から情報収集を始めるわ」

「手伝ってくれるの?」

「おいおい。俺は最初から肯定的だったろ」


 答えると、彼女は「そ、それは……」と顔を赤くする。


「えと、それって……わ、私が可愛いから……とか?」

「は?」


 心底出た俺の疑問に彼女は、あわあわする。


「あ、その、わ、わたちが可愛いのは、当たり前なので、出直してきてくだちゃい。このやろうです」

「なに? バグったの?」

「バッ!? バグってなんかないよ!」

「んー?」


 まぁ可愛いのは認めるが自分で言うと、その価値が下がる──いや、彼女に限ってはそうではないか。自分で言っても見た目は可愛いわ。なにこの子。最強なの?


「ま、俺がやる理由ってのは停学になりたくないだけさ。下心はないよ」

「下ネタはめっちゃ言うのにね」

「あ、あはは。それじゃ。カスミも情報収集しとけよ」

「あ、う、うん」


 彼女の返事を聞いて俺は部屋を後にした。

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