第33話⁂男同士!⁂




 まあ~借金まみれの親戚と、関わりたくないという思いは分からんではないが、それでもあんまりな仕打ち。


 致し方ないと言ってしまえばそれまでだが、満は叔母の佐和に想像を絶する酷い扱いを受けて成長した。

 満の少年期、青年期はまさに地獄のような試練の連続だったのだ。



 だが、15歳違いの従兄弟剛は、自分に兄弟がいない事から、満を本当の弟のように可愛がってくれたものだ。


 あの頃の剛は、東京支店に出張中で週の半分は家に帰って来ない。

 だから、満が佐和から酷い扱いを受けている事など知らない。


 そんな剛は帰ってくれば、まるで兄弟のようにあちこち連れ回してくれた。

 まだ自家用車もさほど出回っていない時代に、車でよく鎌倉や湘南までドライブに連れて行ってくれたのだ。


「オイ!満は彼女いるのか……?」


「エッへへへ!……実は・・」


「……へ~?居るんだね?」


「フフフ」

 頬を赤らめる満なのだが、実はあの裕子と密かに付き合い出しているのだ。


「剛兄さんは奥さんと別れちゃったけど…誰か良い人いるの?」


「ううん‥実は…2人」


「エエエエエエ―――ッ!まさか2人とも関係持った?」


「そうなんだ!う~んどうしようか?困っているんだ!」


「な~んだよ~?只の自慢じゃないか~?アッハッハッハ」


「ああ~?我慢できない!アアア~!やりたい!ようしカフェで抜いて来るか~!満も行くか?」


「ワァ~嫌だな~?・・・・嗚呼でも?行く!行く!」


「な~に恰好付けてんだ!このスケベヤロウが――――――――ッ!」


 元来エッチ好きな2人は大盛り上がり、益々ヒ-トアップしてカフェ(性を伴う喫茶店)などにも連れて行ってもらっていた。

 顔を合わせれば男同士、性の奥義を話し合い盛り上がる2人。



 そして高級なレストランで食べた事も無いような料理の数々に、舌鼓を打ったものだ。

 満はこの地獄のような生活の中で、剛の存在は唯一の救いとなって居た。



◇◇◇◇◇◇◇◇

 1953年事業に失敗して借金まみれの満の父親は、過労と精神的に追い詰められ体調を壊してとうとう70歳で他界した。


 何とも不謹慎な話だが、満は正直『死んでくれてありがとう』そんな思いしかない。


 散々女道楽した挙句、愛する母霧子をあんな残酷な形で死に追いやり、更には借金まみれのどうしようもない父親など、死んでくれて清々しているのだ。

 早速相続放棄の手続き申述書等を裁判所に提出して、自由の身となった満。


 雪の結晶がダイヤモンドのようにキラキラ✨*・

 雪花(せっか)が花びらのようにひらひらと舞い落ちる朝⋆*。・

 1955年1月末の事だ。


 どんな時も優しく導いてくれた、兼ねてから交際中の裕子と所帯を持った満。

 この時満27歳、裕子は24歳。

{もうここは出よう!}


 旧制大学まで卒業している満は、高度成長の波が押し寄せているこの時代に高学歴の満には高収入の就職先は引く手あまた。

 こんな居心地の悪い【ATホーム】で、死ぬまで扱き使われるのは真っ平御免。


 こうして満は国鉄(現在のJR)に就職したのだ。やがて1年後にめぐみが誕生した。



 一方の大地主で手広く不動産業を営んでいる、佐和と婿養子の叔父の息子今井剛は、この時既に40歳過ぎで結婚は、していたが、子供を授かる事が出来ずに離縁している。


 こうして剛と貴美子の間には1954年4月小百合が誕生。

 剛と初美との間に1955年8月万里子お嬢様が誕生したのだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇



 散々満を虐めた佐和の容体が、最近芳しくない。

 実は横浜大空襲で佐和も被害に合っていた。


 たまたま市役所に用事があり出向いていた時に、爆撃に有ったのだ。

 それでも運良く助かったのだが、全身の20パ-セントが焼け爛れた。

【1945年5月29日横浜大空襲による直後の被害者は死者数3650人・罹災者(火傷などによる被害者)311218人】


 あんなに満を虐めていたのには訳が有った。

 いつ様態が悪化して命を落とすやもしれない。

{その為にも災いの元は、何としてもこの手で処分しておかないと……}


 そんな{先祖代々の土地を何としても守り通さねば!}という熱い気持ちが、あのような虐めに拍車を掛けていたのだ。


 やがて佐和も横浜大空襲で負傷した火傷の感染症が原因で、1957年あっけなくこの世を去った。


 佐和の葬儀に剛とあんなに仲の良かった満が、姿を現さなかった。

 剛が連絡したにも拘らず、満は参列しなかったのだ。


 剛にしてみれば一人っ子で大のマザコン。

「愛する母の葬儀にも顔を出さないとは絶対に許せん!あれだけ弟同然に可愛がってやったのに恩をあだで返しやがって」


 あんなにも仲の良かった2人なのだが……。

 いつしか埋めることの出来ない深い溝が……?










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