第22話⁂事件の引き金⁉⁂


 それではいよいよ話も複雑に入り乱れて来たので、少し整理を致しましょう。

✾。⋆✷*・✰⋆


 まず折角結婚までした社長と初美は、何故別離にまで追い詰められてしまったのか?

そこには北陸3県の金沢支社長となった中元の存在が有る。


 いくら加賀百万石の城下町石川県金沢支店と言えども北陸進出は、まだ近年進出したばかりで、他に富山支店と福井支店だけなのだ。

 まだ先の見えない未開発の地。


 こんな状態だから金沢支店では、散々泥水をすすらされた中元は、若干30代の若さで貴美子と協力して必死で成果を出した。


 その甲斐もあり中元は優秀な副参事達の協力も有り、5年間のたゆまぬ努力の結果、見事38歳で異例の金沢市に拠点のある北陸3県の、支社長に任命された。


 1966年6月。

 もうその頃には、貴美子との間には7歳の玉枝と5歳の光男が誕生していた。

 中元は、いくら社長の娘と言えども、この手の付けられない我がまま娘にはホトホト手を焼いている。


 何故こんな手の付けられない娘になってしまったかというと、それは2人の間に妹と弟が生まれた事が災いしている。


 小百合としても自分が社長の娘で、義父とは血が繋がっていない事は充分把握している。

 義父と母が結婚したのが小百合4歳の時の事なので。


 そんな事情が有り、社長の娘である事を笠に着て、義父に対する態度は目を覆うものがある。

 現在12歳で中学1年生の小百合は、高慢チキで手が付けられない。


 東大卒のエリ-トと言えども、たかが地方の町工場の息子、久しぶりに休暇が取れたというのに顎でこき使う有り様。


「オイ!ビートルズが初来日したから、東京の日本武道館に一緒に付き合え!」


「そんな事言ったってお父さんだって、仕事が忙しいから付き合えないよ。金沢ヘルスセンターにでも玉枝と光男も誘って行こうじゃないか~?」


【民間施設として1958年11月1日~1993年8月金沢市卯辰山に松本観光株式会社が「金沢ヘルスセンター 」(後の金沢サニーランド)を開業。

「金沢動物園」が開園。 1963年8月、隣接地に「金沢水族館」を開業。

この金沢動物園のほかにも、演劇場・映画館・小遊園地、さらには大浴場や宿泊施設、隣接する文部省指定の「金沢水族館」もあり、子どもから大人、老人まで楽しめる娯楽施設であった。しかし、入館者数の減少・施設の老朽化などにより35年間の歴史の幕を下ろした】


「あぁ~?やっぱり私が、血が繋がっていないから一緒に行きたく無いんでしょう。パパに言い付けてやる!ワァ~~~ン😭ワァワァ~~ン😭」


「アッ!行く・・行くヨ~!」


 またある時は「お気に入りの洋服が有るから、私とデパ-トに付き合え!」


 たまの休日にも拘らず、事あるごとに無理難題を押し付ける小百合には、中元も困り果てて居る。


 でも最初からこんな娘では無かったのだ。

小さい頃は「おとうたん……おとうたん」と言って中元に付きまとっていたのに……


 何故このような我がままな娘に変貌してしまったかというと、やはり腹違いの姉弟たちの存在が大きいのだ。


 中元はこの小百合を足掛かりに出世したいばかり。

 その為には一にも二にもこの小百合を可愛がり、手懐け評価を上げる事なのだ。


 その為、例え仕事で疲れていてもまず第一に、小百合をまるでお姫様のように{蝶よ花よ}と可愛がっていた。


 その甲斐もあり若干38歳で北陸最大都市石川県金沢支社長に、収まる事が出来た。


 中元もやっと支社長にもなれたし、気の緩みも有ったのか、最近は本来の本性が、所々に頭をもたげて来ている。


 あれだけ今までは{蝶よ花よ}と小百合だけを可愛がっていた父が、最近はめっきり玉枝と光男ばかりを可愛がっているように見える小百合。

 小百合にしてみれば自分は、中元の本当の娘でない事は充分に分かっている。


{やっぱり義父は私なんか可愛くないんだ。それはそうだ…だって私は赤の他人だもの…?でも……寂しい?}


 そこで振り向いて欲しいばかりに無理難題を押し付けて、昔のように{蝶よ花よ}と自分だけを見つめて欲しいと思う小百合なのだ。


 それなのに義父は小百合のそんな気持ちも分からず、2人の子供に目を細めて可愛がっている。


 そんな事が続いた12月のある日の日曜日、北陸地方は12月ともなれば大雪に見舞われる。

 丁度、買い物に出かけた両親の目を盗んで、この時とばかりに自分を放ったらかしにして、下の妹や弟ばかり可愛がる義父に小百合は、等々我慢が出来ずに5歳の光男をこれ見よがしに雪の中に埋めてしまった。


 30分程すると両親は買い物から帰って来た。

 たまたま妹は隣りの友達の家に遊びに行っている。

 5歳の光男の子守を頼まれていたにも拘らず………。


「オイ!光男はどこだ!」


「知らない!」


 両親は大慌てで探し回っている。

 すると庭先から泣く声がして飛び出した両親は、我が目を疑う。


「何て事を!何て事を!」


 慌てて雪の中から救い出したのだが、光男はぐったりしている。

 両親は慌てて病院へ連れて行った。

 診察の結果軽い凍傷で済んだのだが、父親の怒りは尋常なものではない。


 義父は余りの出来事に帰って来るや否や。

「小百合、仮にも弟になんて事を!‥何て事を!ウウウウッ」


 ””パシ――ッ!””

 カ―ッとなって義父は男泣きをしながら小百合の頬っぺたを、思いっきり叩き付けた。


「ワァ~~~ン😭ワァワァ~~ン😭だって~!だって~!私寂しかったんだもの~!

お義父さんが、妹や弟ばっかり可愛がるから~!ワァ~~~ン😭ワァワァ~~ン😭」


「そんな事は‥そんな事は絶対にない!私の大切なグウウウウ・・大切な……それから社長から預かった大切なお嬢さんを‥大切に思って育てたんだウウウウッワァ~~~ン😭それでも……それでも……そんな寂しい思いをさせて・・俺が悪かったウウウ‥許してくれ!」

 義父と小百合は抱き合って延々と泣き続けたのだった。


 やっとわだかまりも解けた中元と小百合なのだが、運の悪い事に、これが原因で小百合は右耳が聞こえなくなってしまった。


 それを知った鎌倉の社長は憤慨して、のちのち大変な事態になって行く。


「私の大切な娘に何て事を!許せない!……ナニ――――――――ッ!右耳が聞こえないだと―――ッ?私の大切な娘をカタワにしおって!」


 この事件が引き金となって………?






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