第19話⁂思惑⁉⁂




 実は社長は初美と生まれて来た赤ちゃん万里子の為にも、貴美子が邪魔で仕方ない。


 しつこく追いかければ追いかけるほど、逃げたくなるのが人間の本能、ましてや初美は祖父が日本人で、祖母はフィリピン人という事も有り、日本人離れした容姿に加え、スタイル抜群でお爺ちゃん譲りの優等生。


 それに引き換え貴美子は、確かに見るからに品位の備わったお嬢様だが、やはり全てに置いておっとりとしていて初美には到底敵わない。


 そこで考えたのが、東大卒のイケメンエリ-ト中元を、あの煩わしい貴美子を誘惑して結婚する事と、尚且つ金沢支店で成果を上げる事を条件として、そこで結果を出せれば北陸最大の都市、加賀百万石の石川県金沢市の次期支社長に任命することを約束したのだ。


 中元にしてみれば異例中の異例人事に、その話に飛び付いた。

 幾ら優秀と言えども若干30代では役不足、そこには経験豊富な副参事として有能な人材を何名か登用してもらった。


 又貴美子にしても夢のような話が転がり込んで来たものだ。

 あの時代女性が、主だった役職に就くなど異例中の異例。


 貴美子にしてみたら千載一遇のチャンス。

{今まで初美のせいで散々コケにされて来たが、今度こそどんな事をしても北陸最大都市石川県で成果を上げて、初美の鼻をへし折ってやりたい!そしてやはり私がいなければこの会社は回って行かないと思うぐらいに活躍してやる!}


 貴美子にしてみれば、会社でキャリアアップして自立する事と、一流企業の社長夫人になる事こそが理想的な生き方。


 まさか、初美との間に赤ちゃんが出来て厄介払いされたなどとは、努々思ってもみなかったのだ。


 ましてや可愛いまな娘小百合がいるにも拘らず、初美との間にまで子供が出来ていよう等とは思ってもみない事。


 そんな大きな希望を胸に意気揚々と石川県に乗り込んだ貴美子。

 能力とは裏腹にプライドだけは人一倍の貴美子なのだが、そんな、何も出来ない喜美子を補佐してくれる中元には感謝感激。



 夜も深まった8時頃、もう会社には誰も居ない。

 2人はいつもこの時間まで仕事に追われて、2人っきりでいるのが当たり前になっている。


 そんな時に、あのク-ルな中元が貴美子の傍に近づき、突然後ろから貴美子を強引に抱きしめて。

「支店長僕は……僕は……あなたの事を以前から‥以前から好きでした」


 余りにも急なことに驚くと同時に恐怖に苛まれる貴美子。


「ナナ…何をするの~?……私には社長との間に娘までいる身なのよ……だから‥そんな事はダメよ!……この仕事が成功すれば私は、社長に結婚しようと言われているの!……だからそんな……バカな真似はよして!」


 すると中元がニンマリ不気味な笑みを浮かべ。


「あなたは私の協力なしには、ここでの仕事の成功はあり得ない……それでいいんですか?社長夫人になりたいんだったら……僕は……僕は……貴美子さんを……貴美子さんを愛している……良いだろう?」


「何を言っているの?いい加減にしなさい!」


 それでも強引にキスをしたのだ。


「何をするの無礼な!・・仮にも社長と結婚するかもしれない私に失礼な!」


「僕も社長からは、貴美子さんをくれぐれも大切にしてやってくれ、と言われています。それでも貴美子さんが余りにも魅力的なので、抑える事が出来なかったのです」


「…………」


 こんな無礼極まりない男中元なのだが、それでも2人共々共通するのはなんとしても、まだ未開発の、ここでの事業に成功して貴美子は、キャリアアップと社長夫人になる事。


 片や中元はここで2~3年辛抱して、成果を出して北陸最大都市石川県の支社長になり、貴美子と結婚して、貴美子と娘の小百合を足掛かりに、もっともっと上に上り詰める事なのだ。


{出世する為には、何としても貴美子を落として見せる!}

 そう心に誓う中元。


 中元にしても、田舎のしがない町工場の次男坊、それに比べて貴美子は、全てに洗練された品位のある旧華族のお嬢様、身分違いのお嬢様を自分の物に出来たらどんなに幸せな事か!そんな思いもあり近づいたのだ。


 そんな2人のなんとしても、まだ未開発のここでの事業を成功させて自分達の思いを成就する………そんなお互いの利害関係が一致する2人は何時しか?


 その為には、いつもどんな時も2人で話し合い、協力する事が何よりも大切な事。


{こんないやらしい獣!}そう思いつついつしか男と女の事。


 いつの間にか、お互いのマンションを行き来するようになっていた。


 そして等々中元と肉体関係になった貴美子は、あれだけ思い詰めていた社長の事などどうでもよくなり中元しか目に入らなくなった。


 これで全て丸く納まり、社長と初美の幸せは未来永劫続き、万里子お嬢様が跡継ぎになれた筈なのに、何故小百合が会社の実権を握る事になったのか?


 また何故母親の初美は、死ななければならなかったのか?

 そこにはいろんな人間達の利権が絡み合う。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 木村直樹は父親に託され、万里子お嬢様とめぐみちゃんに近づくが、万里子お嬢様とめぐみちゃんは、そんな木村の思いなど微塵も疑ってはいない。


 またこの2人は一見仲良しに思われガチだが、そこには思いも寄らない真実が隠されている。


 めぐみちゃんが殺害される数日前に、2人は思いも寄らない言い争いをしていた。


 めぐみちゃんが、物凄い形相で万里子お嬢様を睨み付けている。

「直樹から身を引きなさいよ!あなたの本当の真実を直樹にぶちまけてやる!」


「めぐみちゃん!そんな事をしたら只じゃ済まないから!……フフフ今に見ていなさい!直樹は絶対に私のモノよ!」


 このめぐみとは一体?

 又この万里子お嬢様には何があるのか?










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