第11話⁂万里子お嬢様の母親!⁂



「……私があの静子に目を付けたのには訳があるのよ、めぐみあなたも分かるでしょう?」

「本当に初めて見た時は私もびっくりしたのよ?……何故最初から言ってくれなかったの?」

「今に見てらっしゃい!母の仇を取ってやる!絶対に!」


 万里子お嬢様とめぐみちゃんは、何やら意味深発言をしている。

 過去に一体何が有ったのか……?


 あんなに物静かで、虫一匹殺せないような優しい万里子お嬢様の仮面の裏側には、どんな恐ろしい秘密が隠されているのか?


 実は万里子お嬢様の父親は、親から受け継いだ不動産会社を経営する大富豪なのだが、万里子は父親の正式な娘ではない。



 先妻さんは、子供が授からない『うまづめ』の為にお姑さんさんにいびられ致し方なく離婚させられたようなもの。


 その時に社長の秘書をしていたのが、万里子お嬢様の母親なのだ。

 有能で美しかった母の初美は社長と行動する事も多く、いつしか深い関係になっていった。


 それともう1人の秘書が、貴美子と言う女性なのだが、貴美子は先祖代々の由緒あるお家柄で、華族のお嬢様。


 だが、1869年から1947年まで続いた貴族階級が、敗戦により財産没収・身分剥奪

されてしまい、貧乏のどん底に突き落とされてしまった。

 その為、あの当時は貧乏華族も多く存在した。

【華族(かぞく)は、1869年(明治2年)から1947年(昭和22年)まで存在した近代日本の貴族階級】


 それでもプライドだけは昔ながらの高慢ちきな家族なのだ。

 今まで散々平民との階級の違いに酔いしれていたのに、現実には今日明日にも食べる事に事欠く毎日。


 お家存続のためには、何としてもお金持ちと結婚させたいと考えていた両親なのだが、中々両想いになる事が困難な現状化、『帯に短し、たすきに長し』とでも言いましょうか……?


 こんな貧乏華族に持ち込まれる縁談など、お金持ちと言えば、20歳以上も年の離れたずんぐりむっくりの、禿げ上がったこぶ付き中年社長の後添えか、初老のお爺さん。


 そこに運良く不動産会社大手の秘書課に、配属された貴美子。

 この不動産会社【ATホーム】の社長は、年齢こそ40歳で貴美子と16歳差の年齢にも拘らず、シャ-プで洗練された甘いマスクの持ち主。


 だが、この社長今井は【ATホーム】でも評判の美人初美と、どうも怪しい雰囲気。


{あんな育ちの悪い母子家庭の娘なんかに絶対渡すものか!やっとの事有り付けた金持ち社長。どんな手を使っても私のものにして見せる!}

 そして初美が邪魔になった貴美子は、とんでもない事を思い付くのだ。


 やがて――――


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 一方の静子は、あの中年男、更には木村直樹とどんな関係に有るのか?


 静子の父親はもう亡くなった事になっているが、実は生きているのだ。

 父親は静子が小さな頃に、暴力団抗争で殺害されたと言われているが、瀕死の重症を負ったのだが、命辛々逃げ切り助かっていた。


 博多に事務所を構えるこの吉川会は、戦後暫くは組員総数120人の中堅暴力団事務所だったのだが、忠の努力の甲斐もあり、今現在は九州でも有数の指定暴力団にまで上り詰めている。


 1972年5月27日に、福岡球場で行われたあの日に最前列にいた中年男こそ、その吉川会組長なのだ。

 まだ静子が幼い頃には家族で博多に住んでいたのだが、父と連絡が付かなくなったので小倉北区の実家に身を寄せる事になった。


 その時に父親忠が、暴力団抗争で小倉北区の暴力団事務所大山会の幹部を撃ち殺している為に、おいそれとは小倉北区には近付けなかったのだ。

 それでも怪我も治ったら連絡出来るだろうに……?


 実は元々鼻っ柱の強いこの忠は、どんな事をしても出世したいばかり。

 そんな時に、まだ若かったイケメンで有望株の忠に、以前から好意を寄せていた組長のお嬢さんが、甲斐甲斐しく世話をしてくれた。

 そして気が付けば2人は、切っても切れない関係になっていた。


 ヤクザの世界で出世するには……?

 *まず相手方の幹部を射殺するなどの手柄を立てる事。

 *シノギが上手い。

(用心棒、けつもち)(特殊詐欺)(賭博、ノミ行為)(正業)(自動車盗難)(ダフ屋)(興行)等々

 例えばこんな例もある。

(妻、愛人にクラブやスナックをやらせる。店のホステスを系列のホストクラブに連れて行き、ホストがホステスを夢中にさせて貢がせる)

______________________________________


 静子の母町子も、男をたぶらかして何ぼの色欲の世界。

 独身の方がお客が付く事も有り、死んでしまった夫をいつまでも待つ訳にもいかず、早々に籍を抜き独身になっていた。


 一方の忠はというと、たまたま一人娘という事も有り、組長のお嬢さん光子の強引さに負け婿養子に入ったのだ。


 先代の組長も癌を患い長い闘病の末に亡くなっているので、現在は吉川会の跡目を継いでいる。


 またシノギの上手かった忠は、若干20代後半で若頭補佐と言う立場にあった事から、あの時妻の町子にキャバレーをやらせていた。


 凶暴な先代組長と嫉妬深い妻光子の目が光っている事から、連絡出来なかったのだ。

ましてや店も持たせてある事だし、何とか生活出来るだろうと高をくくっていた。


 静子は、父は死んだ者と聞かされていたので、まさか、あの優しいおじちゃんが父親など努々思ってもみなかった。



 それでも娘が、シンガ-ソングライターとして活動を始めたと噂に聞いた忠は、何とか力になりたくて、静子を中洲のクラブで歌わせていたのだ。

 じゃ~?木村直樹とは一体どんな繋がりが有るのか?


 実は木村は、忠がまだ町子と結婚する前に付き合っていた女との間に出来た息子。


 まあ~当時は、ヤクザがまだ闊歩して悠々と大手を振って歩いていた時代。

 イケメンでやり手の忠には、水商売女が群がっていた。


 その当時木村の母親は、祖父母宅に木村を残し男と行方知れずになっていた為、忠が博多の木村の祖父母宅に金銭的な援助をしていた。


 こんな経緯もあり父親の忠とは、連絡を密に取っている間柄なのだ。

 スポ-ツ万能な直樹は、父親の援助の甲斐もあり、やがて球界のトップスターになっていった。




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