2 人間になる

 とある初夏。


 ある人がチリン、とわたしを路上に落とした。

 わたしは夏風が風鈴を揺らしたような涼しげな音を立てた。




 気付けばわたしは人間になっていた。


 わたしは妙齢の女性で、金魚のように目の覚める明るい朱色のドレスを着ていた。


 夜の繁華街、ドレスをひらりとくゆらせた。

 人間は、男も女も若いのも老いたのも、ぽーっとわたしに見惚れた。


 そんな繁華街のあるお店に呼び止められた。

 わたしはその仕事に向いていて、評判になった。


 そして、人から人の間へ自由気ままに泳いだ。わたしは有頂天になっていた。


 夜の街で、お金と信用がいつも一緒くたに語られる様を眺めた。


 詐欺で騙し取ったお金で大盤振る舞いして何本もお酒を買ってくれたらその人は「良い客」となった。


 ひたむきに働いて稼いで、女の子に頑張って貢いで、奥さんをたくさん泣かせた客がいた。


「お金より大切なものがあるの」と夢を叶えるためにお店を続けた女の子が心を壊して気付けばいなくなった。


 面白おかしく、虚しくつらく、娯楽に溢れた退廃的な毎日があった。





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