私と猫

甘味料

1

膝の上で揺れる白い毛並みを撫ぜていました。

彼は顔を膝の方に向けており、庭の木に寄っていく蝶につられて頭が少し揺れているのを感じます。

私の太腿の上は、彼だけの特等席でした。

そこからどんな景色が見えるのかと問うたことがありましたが、「別に何も、温いだけ」とのことでした。

私には分からないようでした。

ただ、確かに彼のぬくもりは私も感じていました。

ここで座っている時の私はいつも、いつまでこうしていられるかを考えていました。

彼には言いません。

私たちの間で、先の話は禁句でした。

どうしたって私ははやく、彼は遅れてやってくるのです。

私も彼もそれを分かっていながら、けれども離れられずにいるのでした。

指の股をくすぐっていく柔い毛並みが、汗で少しだけ重たくなっているのを感じました。

「暑い?」

彼は一時私の方を見やり、またゆっくりと目を閉じました。

邪魔をするな、ということだと思いました。

私は黙って、また彼の毛並みをゆっくりと確かめました。

愛おしかった。君のことが。

年甲斐にもなく、毎日毎日彼の事だけを考え、そして眠る日々でした。

もう友情とも愛情とも家族愛とも形容しがたい鳩羽色の何かが、私の中で渦を巻いているようでした。

本当は屋根の修理なんて業者に頼めばよかったのです。

料理も洗濯も何もかも、彼が来るまでは自分でやっていたのです。

出来ないふりをしました。

君を繋ぎとめる方法がそれぐらいしか思い当たりませんでした。

彼の思うような理想の大人には、到底近づけそうもないと思いました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私と猫 甘味料 @kama-boko3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ