第11話
「ねぇ、門左衛門さん」
「はいっ。えっ?」
亀に乗って門左衛門は海の中に潜っていた。目も染みると思い目を閉じ、息を溜め込まないとと、口を閉じていて、質問に一言だけ答えてすぐに口を閉じるつもりだったが、普通に息ができた。びっくりして、目を開けてもはっきりと海の中をみることができ、ちっとも痛くはなかった。
「太郎さんは元気でしたか?」
「ええ、最初はよぼよぼのお爺ちゃんだと、思ってたけんど、面白いお爺ちゃんだったけー、仲良くさせてもろっとりました」
「そうですか」
亀は前を向いているので表情は門左衛門にはわからなかった。
「さっ……着きましたよ」
「うんわぁ…っすんげぇ……」
大名様もびっくりするであろう豪華絢爛の建物。
金の瓦に朱色の柱。
木々の代わりに飾られたサンゴは色とりどり。
「こりゃすごいね、亀さん……って、あれっ?」
亀はどこかに消えていた。
門左衛門が亀を探して、辺りを見渡していると、門がゆっくりと開く。
少しずつ開くそのドアの真ん中にはたいそう美人で、緑色の豪華な衣装に豪華なかんざし。誰もがその人に目を奪われるのに違いない。
ただ……
(いた…っ)
門左衛門は違った。
門左衛門が目を奪われたのは、その真ん中の女性を引き立たせるような控えめに立ちながらも、門左衛門とどんな顔を合わせていいのかわからない顔。その顔はいつものように恥じらいで頬を赤らめて、大層可愛かった。
「たゑ子……っ」
門左衛門が嬉しそうに涙を流した。
今生の別れだと思っていたたゑ子がそこにいる。
どんな豪華な建物も、どんな絶世の美女を見ていたとしても、門左衛門の記憶から霞んでしまった。
だって、たゑ子がいるんだから。
「あらあら…主人よりも目立つ侍女がいるようね」
真ん中の女性はにこっと笑うと、たゑ子はさらに真っ赤になった。
(んだよ、爺さん…ちゃんとたゑ子は人型でおるぞい)
「あぁ、すいません。あなたが、乙姫様ですか。申し遅れました、門左衛門と申します」
「はい」
乙姫様の顔を見た門左衛門。
「…どうかされましたか?」
乙姫が尋ねる。
「あぁ…いえ……」
門左衛門は首を傾げる。
乙姫様とは初めて会った気がしなかった。
「ふんっ」
そんな門左衛門を見て、たゑ子はちょっとムスっとしていた。
「さあさあ、こんなところで立ち話も何ですから、中にお入りください」
乙姫様に案内されて門左衛門は屋敷の中に入って行く。
門左衛門は浦島太郎となるのか、それとも新たな人生を歩むのか―――
おしまい。
【完結】ツレない男とツレたい女 西東友一 @sanadayoshitune
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