第3話

 勘十郎はそれから門左衛門の話を色んな人に話しまわった。

 それも背びれ尾びれをつけて、大層おかしく話したもので、門左衛門は見栄っ張りな男として、周りから大層笑われた。すると、元から寡黙だったのに加えてそんな話が出たら、さらに村の女子とのいい関係を結ぶことができず、独り身として過ごしていた。


「もしっ」


 そんなある日のことだった。

 家でゴロゴロしていると、親戚のおばさんが、後ろに誰かを連れてやってきた。


「なんね?」


 門左衛門はぶっきらぼうに返事をして、再び背を向けたまま目を閉じていると、


「あんたに、会いたいって子を連れてきてやったよ」


 それを聞いた門左衛門はばっと、起き上がる。


「ほら、挨拶をし」


 すると、後ろからアマテラスにも負けないくらい美しい女子がそこにいた。


「こんにちは、門左衛門さん。たゑ子と言います」


「おお…っ、門左衛門じゃ。よろしゅう」


 二人ともそのまま相手を見て照れて次の言葉が続かない。

 そんな二人を見て、おばさんが腰に手を当てながら、ため息をつく。


「ほんに、二人はお似合いじゃ。まったく、ゆで上がった蛸みたいになっとるわ」


「「……っ」」


 二人はそんな冗談にも、照れて何も返せなかった。

 いい歳をした二人がそんな純粋な感じだから、さすがのおばさんは微笑ましくなった。




「うっ……うまいっ」


 たゑ子の作ったみそ汁を口に含んだ門左衛門は目をぱっちりと開けて瞬きをする。


「ふふふっ、ありがとうございまする」


 たゑ子は嬉しそうに笑った。


「お前さんは、大層きれいな目をしてるんじゃねぇ」


「……っ」


 普段仏頂面をしていた門左衛門の瞳は輝いており、それを嬉しそうな顔でたゑ子が見てきたので、門左衛門はみそ汁の入った茶碗をくいっと飲み干し、


「おかわりじゃ」


「はいはいっ」


 目線を合わせることなく、茶碗をたゑ子の前に出す。

 たゑ子はそれを預かって、台所へと向かう。

 目を合わせることができなかった門左衛門はたゑ子の後ろ姿にドキドキしながら見送ると、たゑ子が急に振り返り、目が合う。


 たゑ子は目が合ったのに気づいて、頬を赤らめながら嬉しそうにニコっとして、台所の扉を閉めた。

 門左衛門にとって、みそ汁の味は絶品で何度も反芻したいと思ったけれど、たゑ子の笑顔の方を何度も思い返していた。自分も照れ屋だが、自分と同じように恥らいつつも自分に好意を向けてくれるたゑ子のことをすぐに大好きになっていた。


 それからというもの、門左衛門は少しずつ明るくなり町の人とも仲良くなっていき、たゑ子が米の方が好きだと言うのを聞いて、田んぼを借りて大層うまいお米を作るようになった。元々力があって、釣れなくても諦めないで粘れた門左衛門はどうやら稲作の方が得意のようだった。


 二人が作るご飯とみそ汁は村で一番の美味しい料理と有名になった。

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