第3話 一冊の大学ノート

私の手元に大学ノートがある 


話の流れでSさんが逮捕された後で息子さんに手紙を書いた、と言うので

どういう内容なのか教えて欲しかったが


「覚えてないの」


申し訳なさそうに答えて、しばらくしたらこのノートを届けてくれた


「息子には内緒ね」


私はSさんの記憶にある息子さんのことを全て聞き出している


Sさんの息子さんに関する備忘録を細部まで書き尽くすことを頼まれたから


私が書く上で2人の関係性を客観視することにSさんは興味を示して協力的だった


そのノートは留置所にいるときに買って書いたもので、Sさんの手紙について書かれているのでSさんの記憶と共に参考にして欲しいと言われた


ノートは開いた右側だけ右上のナンバーに黒インクの数字が押してあり最後のページが40で終わっているのでノートはページが40枚あることを知った


1ページ目で驚いた。鉛筆の小さい文字が隙間なくビッチリと埋まっている


「空白を作ってはいけない規則らしいの」


私の表情を見て察したのか、Sさんが説明してくれた


ノートは表裏で1ページ、それがNo7の表半分で切れている


最後の文字は〝考えることをやめた〟

最初の文字は〝母から手紙がきた〟


ノートをしばらく貸してくださるというのを断り、写メをお願いした


数分間、目を通しただけで、胸が詰まってしまったから慌てて冷静を装う


6枚の表裏、1枚の表半分、枚数は少なくても書かれた文章にたくさんの情報が入っていて目のやり場に困った


Sさんには、見せて大丈夫な部分だけ、とお願いしたけど後で送られてきたのは全文の13枚、文字だらけの画像だった


実際にゆっくりと目を通してみると重要な内容ばかり、特に母親に対する想いに否応なしに感情的に関わらずにはいられない気分になる


だけど、13枚と一緒にくれたSさんのメッセージは辛辣だ


『全部鵜呑みには出来ないの。これは看守さん達も目を通すものだから、あの子がそれを意識して書いているのを忘れないでくださいね』


これがきっかけで私はSさん親子そのものに興味を持ち始めていく


そしてSさんが憂い警察が相手にしない一文がここに書かれている


No 6表 〝彼らは俺を許さないだろう〟

     〝次こそは失敗しないだろうな、それが俺の番〟


  




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