罪人《ツミビト》の誕生

多情仏心

第1話 病院の待合室にて

朝1番の予約の人が午前11時になってもまだ診察に呼ばれない、と怒っている


ツイテナイ


巻き込まれ事故でプレスされた車の中で助かった時に運を大量放出したようで、3ヶ月以上の入院を経て退院しても長いリハビリの日々、ついでの診察日がこんなに混んでいる今日なんてね、私の診察日だから混むのか?とひがみたくなる


整形外科の待合室だけ満員なので一旦避難して隣りの内科の待合室に移った

すると以前に入院した時に同室だったWさんがいた


「アンタ、元気だったかい」


相変わらず短髪が似合うおばあちゃん


「病院で会って元気だったかと聞かれても、元気と答えるよ、笑」


「そうかい、あれからずっと書いてるの?」


エッセイのことだ

「うん、ポチポチね」


「書かなきゃダメだよ!いつかそういう職業人になるんだろ」


「うん」


「毎日新聞見て賞があるとアンタの名前探しているからね」


Wさんは退院する時と同じことを言って去った

新聞に載る賞ってどんなデカい期待してくれてんの?


泣きそうになり笑いそうになる


「ねぇ」


いつの間に隣りに来たのだろう?

同じ地区内のSさんが目を見開いて私を見つめていた。


「あなた物書き出来る人なの?」


「はい、一応目指すものがあります」

Wさんとの話を聞いていたのだろうから否定しなかった


「お願いがあるのだけど…」


Sさんの話は受診の待ち時間では足りないものだった


家に帰るとすぐネットで地方紙を検索した


言われた通りの記事はすぐ見つかり読むと、Sさんの言葉が当事者のものであることに少し胸がザワザワする


私が記事はもちろんのことSさんの身の回りに起きた出来事に対してまるで無知なことを知ると、少し安心したように微笑んだのを思い出す


「もしも私が死んでも、今までの状況が残っていて、もしも何かが起こっても、それが重要な参考として警察の目に触れたら少しは息子の助けになってくれると思うのよ」


Sさんの話を聞いた後でも記事を改めて読んだら、Sさんは少し大袈裟ではないか?

そんなことを感じたけど私は小学生の時に自殺した同級生を思い出していた


あの時も私は、まさか自分から命を絶つなんて思ってもいなかった


クラスで虐められていたけど自ら笑ってた時もあり、同じ空間にいながら遠くの景色を見ているように無関心で、後でその子の母親に言われた言葉「あなたは良い人だったとあの子が言ってたよ」それがとても痛かった


私はすぐにSさんにメールした


先程の件、やらせてください

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