男女比がおかしな世界でパパになるまで

アロハ座長

男女比がおかしな世界でパパになるまで


 僕こと柊真琴ひいらぎ・まことは、小さい頃から、ふとした瞬間に違和感を感じている。


 僕の家には、父親がいない母子家庭であること。

 テレビに映る人間の多くが女性であること。

 お母さんは、僕をやたらと過保護にしていること。


 そうした違和感についてお母さんに聞いた結果、その答えを知ることができた。


「いい、マコちゃん。世の中には、男の子はとっても少ないんだよ。だから、男の子が一人でいると攫われちゃうのよ」


 母親にそう言われ、その後、この世界の男女比が1対30の超性別偏り世界であることに気付くと同時に、前世のことを思い出す。

 前世の世界の男女比は、大体半々の日本に生まれたために、きっとパラレルワールド的な日本に転生したのだと思う。

 前世では二十歳頃に事故で逝ってしまったと思う。


 死ぬ直前は、童貞のまま死ぬのは嫌だなぁ、という非モテ男子の思い残しをしたために、極端に男女比が狂った世界に転生したのかもしれない。


 男女比の狂った世界なら、よっぽどのことが無い限り、未婚のまま終わらないだろうし、何だったらハーレムだって作ることができる。

 テレビの政治ニュースを見る限り、この世界は一夫多妻が認められて人口が維持されているようだ。

 とは言っても、前世の日本的な、男は労働女は家庭、という思想では一夫多妻は維持できない。

 そうなると必然的に、女性も社会に参加して自立していくことになる。

 また女性が社会に参加しやすくなると、僕のお母さんみたいに結婚せずに、ただの遺伝子提供者との子作りによる母子家庭もあるらしい。

 割合的には、1人の男性と結婚できる女性が4、5人で、残りが遺伝子提供を受けるか、独身となる。

 そうした結婚できなかった人の中には、結婚や恋愛に夢を抱いているために、男性を誘拐する事件も発生するそうだ。


 まぁ、色々あるけど、男性として生まれた僕の身は、とりあえずやべぇと言うことだ。

 そうして男女比のおかしな世界に戦々恐々としつつ、保育園に通うようになれば、園のクラスは僕以外は全員が女の子だ。


「マコちゃん、お外で遊ぼう!」「マコちゃんは、私とおままごと! 私が奥さんでマコちゃんが旦那さん!」「積み木で遊ぼうよ!」「うぇぇぇぇっ!」


 女の子は何歳だろうと、女の子なのだろう。

 クラスで唯一の男の子の僕へのアピールが激しい。

 クラスの人気者と言えばいいが、毎回毎回全員から遊びに誘われて、女の子同士の喧嘩を間近で見せられて、辟易としてしまう。

 どうせなら、隣のクラスの男性保育士さんの居るクラスの方がよかった。

 男性保育士さんのクラスだと、クラスのおませな女子が保育士さんに興味を向けるので、圧力が分散されるのだ。

 また男女比がおかしいために、男の子は守られる側。女の子は外で働いたり、男を守る側と認識される。

 その結果、何が起こるかと言えば、男女の役割の逆転である。


 女性が男性的な役割を求められ、男性が女性的な役割を求められる。


 つまり、性別あべこべ化も起こるわけだ。

 保育園の頃はまだ性差は大きくなかったが、小学校の頃に上がるとそれが徐々に顕著になってくる。


「おい、真琴! どうだ、凄いか!」

「え、えっと……凄いよ。ナイスシュート!」


 引き攣った笑みを浮かべて、昼休みに校庭でサッカーをする少女たち。

 俺は、大人しく教室で図書館で借りた本を読んで過ごしたかったが、活発なタイプの女の子たちに連れ出されて、サッカー見学となる。

 クラスで一番運動神経がいい女子がサッカーのゴールでドヤ顔し、周りが僕に対してアピールできなかったことに悔しそうな顔をしている。


 前世の精神年齢が高いために作り笑いでやり過ごしているが、この世界の女子は、前世の女子より平均して力が強いのか、ちょっと怖いのだ。

 それに前世では、彼女歴なしの童貞陰キャ気味な男性としては、活発なタイプの人は、なんとも落ち着かないのだ。

 そうなると、クラスの大人しめの子たちと関わることが多くなる。


 主に子どもに人気のアニメとかで話をして盛り上がると、オタク友達と盛り上がっていた中高生時代を思い出して、ホッコリする。

 そうなると、大人しめ……と言うか、クラスのスクールカースト下位の子にも気遣う優しい聖人化されて、更にモテる。……何故だ。


 他のクラスの男子は、男性が少なく大事にされるために、ちょっとワガママと言うか尊大な態度を取ることが多く、女子目線での男子のランキングが作られて堂々の一位になったりする。


 そうして、前世の知識と何故か美化される性格に、あと小動物的な優しい顔立ちから学校一の美少女……ではなく美少年扱いされる。


 まぁ、そんなこんなで小学校を過ごして高学年になる頃から、女子から告白されることが多々ある。


「好きです! 好き合って下さい!」

「あー、えっと……今はそう言うことを考えられないから……ごめんね」


 そんな告白を受けて、家に帰れば仕事の母親の代わりに夕食を作ることが多くなってきた。


「マコちゃん、今晩も美味しかったわ。これならいつでも素敵な旦那さんになれるわね」

「母さん、普通にネットのレシピ通りに作っただけだよ」


 前世では、ほとんど料理をしなかったが今世では働く母の代わりに料理を作るようになった。

 まぁ、そこそこ器用にできるために、ネットのレシピ通りにやれば大きな失敗もない。

 ただ、誰かに美味しい、ありがとう、と言ってもらえると、段々とモチベーションも維持できるので料理にのめり込んでいく。


 そんな評判の美少年になった僕は、小学校に入ってから痴女に誘拐や襲われそうになったのは、片手の指では足りないほどになってきた。


 もうその頃には、前世で思った脱童貞の意識はなくなり、むしろ女性不信にまで陥っていた。

 だからと言って、男に走るつもりもないので、このまま独身を貫くのかなぁ、などと思うようになる。

 そんな僕も小学6年生になり、普通に前世と同じように女子への性欲も湧くようになってきた。

 とは言っても、前世の女子をチラチラとバレるような視線を向けると「ちょっと、男子~」みたいに非難されることはない。

 むしろ、女子たちがそうした視線に無頓着で、むしろ大っぴらに見せてくるのだ。

 なので、パンチラ、胸チラ、ブラ透けは当たり前。

 唯一の救いは、馬鹿な小学男子みたいにパンツ下ろして、ちんこを見せつけるような体を張った下ネタをこの世界の女子はやらないのだ。

 それでも一日に何度もそう言う物を目撃し、悶々としてしまう。


 そんな物を見せられた結果、寝ている間に夢精してしまう。

 翌朝に母親に気付かれて、赤飯と鯛飯で祝われたのは、恥ずかしい。


 そして、精通したことで、母親がとある資料を取り寄せてきた。


「……精子バンクのご協力?」

「そうよ。精通した男の子は、この精子バンクで精子を保存するのが、男の子の義務なのよ」

「ふぅ~ん」


 一昔前までは、婚姻関係のある女性以外も人口維持の観点から政府が女性を斡旋するマッチング制度があったらしい。

 それにより、遺伝子提供を受けた女性が子どもを産んで人口を維持していた。

 近年では、効率化を目指して、精子バンクに保存された精子を使った人工授精による妊娠も行なわれているそうだ。


「私の場合も、人工授精でマコちゃんが産まれたのよ。近親者じゃない男性の中から遺伝子を選んだのよ」

「僕の他にも顔も知らない異母兄弟がいると思うと変な感じだね」

「まぁ、それが世の中の普通よ。とりあえず精子保存は、義務でもあるし、受ける側にもメリットもあるのよ」


 どうやら男性が精子バンクに精子を提供することで、将来的に年金受給額が増額するらしい。

 また採取された精子が検査された後にランク付けされて、ランク度合いに応じた精子の代金が支払われる。

 最近では、一夫一妻の結婚感に憧れを抱く男女もおり、男性側が精子を提供することで人口維持に貢献しているために無理な一夫多妻ではなく、一夫一妻を後押ししてくれるそうだ。


「そっかぁ、それじゃあ精子バンクに登録しないとね」

「なぁにぃ? マコちゃんってもしかして、一夫一妻の純愛に憧れがあったりするの?」

「べ、別に……ただ、女子はちょっと苦手だから、そう言う選択肢もありってだけ……」


 そうして僕は、最寄りの病院に通い、精子の提供を行なうようになった。

 大体、1回精子を提供すると、3万円ほどになった。


 そうして中学校に上がると、周りの女子の体が第二次性徴で更に女性らしく変化し、それを日々見せて誘惑してくるのだ。


「マコちゃんは真面目よね。そんなに気になるなら、お試しで付き合っちゃえばいいのよ!」

「母さん、そんな気持ちで付き合うのは失礼だよ」


 夕食の時に母親に相談すれば、そんなことを言われるのだ。

 男女比がおかしいために、お試しで同時並行で幾人もの女子と付き合っても問題無いらしく、普通にカルチャーショックだ。

 近所の高校に通う男子が複数の女子を引き連れて、モテ男ムーブをしているのを見ると、なんとも言えない気持ちになる。

 とりあえず、リア充爆発しろ、でいいと思う。


「それじゃあ、マコちゃんは好きな子とか居ないの?」

「うーん。そこそこ話をする仲のいい子はいるけど……恋愛は考えてないなぁ」


 母親にそう言われても、肉食女子たちに手を出す気にはなれず……けれど、日々の誘惑で性欲が溜まる。

 溜まる性欲を解消するために、病院で抜いてもらって落ち着く。

 精子を提供したことで社会貢献にも繋がり、性欲が落ち着いたところでまた誘惑される。


 そんな変なサイクルの所為か、病院で精子提供を繰り返してお金が貯まる、貯まる。

 そして、頻繁に精子提供するために僕は、他の男子より人一倍性欲が強いらしいことを指摘されて、なんとも言えない気持ちになる。


 いや、僕が悪いわけじゃない。

 性欲が高まった状態で、病院で抜いてくれる女医さんが上手なだけだ。

 これは、クラスの女子には知られてはいけない秘密だ。知られたら、恥ずかしすぎる。


 そんなこんなで、誰にでも優しい美少年の評価に、貞操観念のしっかりしたお堅い高嶺の花扱いされる一方、精子を売ってお金を貯めている。


 そんなこんなで、清楚系美少年などと言う訳の分からない評価を維持しつつ、高校に進学した16歳の春――。


「マコちゃん、ただいまー」

「お母さん、お帰り……って、その子、誰?」

「お、おじゃまします」


 仕事から帰ってきた母親が、一人の子どもを連れて帰ってきたのだ。

 可愛らしい幼児で、クリッとした目が可愛い男の子である。

 ただ、なんとなーく、お母さんに似ている気がするが……


「ふふふっ、誰だと思う?」

「えっと、お母さんの親戚の子、じゃないよね。お母さん、親戚いないし……まさか、お母さん。いくら男性不足だからって小さい子を攫ったりなんか……」

「違うわよ! この子は、マコちゃんの子どもです!」

「……パパ?」


 幼児が、小首を傾げながら僕を見上げてくる。

 お母さんに似てると言うより、確かに僕に似ているなぁ、などと呑気なことを思い、その意味に気付いて、驚きすぎて、腰を抜かした。


「ぼ、ぼぼぼぼ、僕の子!? お母さん、どういうこと!?」

「普通、遺伝子提供で産まれた子が目の前に現れることないから、驚くわよね」


 お母さんがそうのほほんとしているが、とりあえず落ち着いて、詳しい事情を聞く。


 お母さんの連れてきた男の子――翔太くんは、正真正銘、僕の子らしい。

 翔太くんの母親は、僕の精子を使った人工授精で妊娠。

 そうして、僕の息子の翔太くんが誕生したらしい。

 普通は、僕と翔太くんとの間には遺伝子提供の繋がりしかなく、出会うこともなく過ごしていくはずだった。

 だが、母子家庭の翔太くんのお母さんが事故で亡くなり、頼るべき親戚もいないのだ。


「そうなると、男の子一人になるでしょ? 児童相談所でずっとお世話になるのも心配だし、男の子を下手に養子に出すとその家で囲われちゃうこともあるのよね」

「囲われるってなに……」


 この世界に転生して、ちょいちょいダークな一面を垣間見る気がする。


「とにかく、男の子を下手なところで育てられないから、翔太くんの父親に当たるマコちゃんの保護者の私のところに連絡来たのよ。翔太くんは、私の孫にも当たるから私の養子として引き取ることにしたのよ」


 マコちゃんは手が掛からないから、前々から第二子が欲しいと思っていたのよねー、とのほほんとする母さん。

 まぁ、母さんは二十代前半で僕を産んだのでまだ三十代後半でお祖母ちゃん感はない。


「マジで……僕の子どもで弟になるんだね……。それにしても僕の子どもかぁ……」


 今の年齢が16歳で3歳の子どもと言うことは13歳の時……いや、妊娠期間を考えると12歳頃の精子で産まれた子だと考えると、僕が精子バンクに通い始めた頃からの子どもだろう。


「……パパ? バァバ?」

「うーん、お母さんの養子になるから、僕はにぃにかなぁ。それにバァバがママになるけど……」

「ショーのママは、ママだけなの……」


 しょんぼり涙目の翔太くんは、お母さんを亡くしたばかりだ。


「私もまだ若いつもりでいるからバァバよりおばちゃんの方が嬉しいかなぁ」

「パパ、おばちゃん……」

「まぁ、とりあえず、それでいいかな。それじゃあ、お夕飯は食べたい物あるかな? 翔太くんの食べたい物、作るよ。我が家に来たお祝いをしないとね」

「……ハンバーグ」


 そう言って、もじもじしながら食べない物を言ってくれて、ホッコリする。

 ずっとこちらを伺うような翔太くんは、夕ご飯を食べて、お風呂に入り、僕と一緒の布団に入って眠る。

 まだ息子という実感が湧かず、可愛い弟ができた感じで僕たちは家族になった。


 その後、何故か精子バンクで産まれた翔太くんを引き取り、一緒の家族になったことで、ご近所で有名な美少年兄弟なんて扱いを受ける。

 更に、誰にも付き合わずに身持ちが堅いのに、人工授精で産まれた息子と家族になる話しが広がり、僕の聖人評価が何故か爆上がりしたそうだ。


 こんな男女比のおかしな世界に振り回されている僕だけど、今日も息子で弟が可愛くて、毎日が楽しい。

 それと、いつか素敵な彼女を見つけたいです。

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