閑話 旦那様の婚約者  トマス視点

 私はトマスと申します。イリシオ公爵家で家令を勤めさせて頂いております。名前は本当はトマスレア・サムエル・カルステンと申しますが、アルステイン様が幼少時に「トマス」と呼び習わして下さったのを気に入って、今では他の者にもトマスと呼ばせております。


 私は侯爵家に生まれましたが、10人兄弟の7男でございました。とても跡を継ぐどころか財産分与も期待出来ない兄弟の多さでしたので、私は12の歳に帝宮で執事見習いとなりました。そこで経験を積み、25歳で正式に帝宮の執事になる事が出来ました。そして30歳の時、お生まれになったばかりのアルステイン様の執事に任命されたのです。


 アルステイン様は現在でこそ澄ました顔をしていらっしゃいますが、幼少時はわんぱくで兄君ほどではございませんが病気になられる事も多くて目が離せませんでした。しかし優秀さは明らかで、勉学も運動も素晴らしい才能をお持ちでございました。しかも勤勉でもございましたから、益々優秀になって行きます。


 長ずるに従って可愛らしかったお姿も凛々しく、風格を増していかれました。剣術に関しては正騎士にすらお勝ちになるようになり、12の歳に軍に入られ経験を積まれるとメキメキと才能を発揮されました。初陣で手柄を立て、小隊を指揮して本隊の危機を救い、偵察隊を率いて敵地に潜入して敵を攪乱し、中隊を率いて敵の側面を攻撃して混乱させ、大隊を率いて困難な殿軍を勤め生還し、連隊を率いて窮地の砦を救い、師団を率いて敵の侵攻軍を撃退しました。


 18歳で既に名将の評価を得て階級は大将。この頃は皇太子だった病弱な3歳上の兄君よりアルステイン様を次代の皇帝に推す声もかなり強かったのです。


 しかし、その年に先の皇帝陛下が崩御。兄君が新皇帝に即位されました。すると新皇帝の側近達、特に宰相のランドルフ・イマシ・ヘルバーン様が「新皇帝の兄弟は臣籍に降下するのが慣例である」と強硬に主張し始めたのです。宰相閣下は皇帝ハイランジア一世陛下の皇妃ヘラフリーヌ様の父です。義理の父の強い要求に逆らえなかった皇帝陛下はアルステイン様を臣籍に降下することに決め、受け入れたアルステイン様はイリシオ公爵になられました。


 ただ、皇帝陛下は病弱ですし、他に兄弟はおろか血の近い親戚すらおられません。皇室の断絶を危惧された皇帝陛下はアルステイン様を公爵に落とすものの、自分に子が生まれるまでは皇位継承順位一位だと名言し、アルステイン様が一番お気に入りだった離宮を下賜しました。そして宰相閣下の反対を退けてアルステイン様を軍務大臣にして軍の最高司令官とし、軍の全権を付与したのです。


 もっとも、アルステイン様は皇位にはまるで興味をお持ちでなく「早く陛下に子供が産まれれば良いな」などと仰っています。ハイランジア一世が皇妃様と結婚されてもう7年です。恐らく皇帝陛下にお子は望めないだろうとの専らの評判なのですが。


 アルステイン様が公爵になられる際、私は迷わずアルステイン様の家臣に移りました。私はアルステイン様に心酔しておりましたし、同様にアルステイン様を溺愛している私の妻であるエルグリアも迷わず移籍を希望していましたから。私はアルステイン様の家令となり、アルステイン様を旦那様とお呼びするようになりました。同時に、私はこれまでの献身を評価され伯爵の位を頂きました。


 旦那様も20歳になられました。もう結婚していてもおかしく無い歳です。しかしながら旦那様はあまり結婚に乗り気ではありませんでした。旦那様は軍におります。軍はかなりの実力社会で、平民や下位貴族の士官が大勢おり、そのような部下と親しく接している旦那様は位が高いだけの無能が特にお嫌いで、何もしないくせに気位が高い令嬢がどうもお気に召さないらしいのです。そんな事を言っても皇統の問題もあります、事実上の皇太子である旦那様には早く結婚して子供を作って貰わなければ。周囲が気を揉んでいても旦那様は令嬢に色目を使われたくないと夜会にすら滅多に出ません。私もエルグリアも大変心配していたのです。


 ところが、そんな旦那様が突然恋に落ちたのです。何が起こったのでしょう。旦那様が突然足げく夜会に通い出したかと思うと、ある日嬉しそうな顔で「好きな女性が出来たのだ」と言ったのです。私もエルグリアも仰天しました。調べさせるとお相手はフレブラント王国の貴族商人の娘で名をイルミーレ・ナスターシャ・シュトラウス様。位は男爵令嬢だそうです。私もエルグリアも旦那様が遂に恋人を見つけられたことを喜びました。


 幸せそうな旦那様でしたが、ある日、真っ青な顔で帰宅されました。何事かとお話を伺うと、なんとイルミーレ嬢が帰国されるとの事。確かに異国の貴族商人ですから仕方の無い事です。しかし旦那様は諦めるつもりは毛頭無さそうでした。


「トマス。イルミーレを招く夜会を開く。準備を頼む」


「はい。どのような規模になりましょうか?」


「帝国の上位貴族全員を招待する」


「は?」


「帝国の上位貴族を全員招待して、私はその場でイルミーレに求婚する!」


 とんでも無い事を言い出しました。しかし日程は三日後、四の五の言っている暇は有りません。私は大至急手配を始めました。使うのは公爵邸最大の大ホールです。招待者は上位貴族が100人規模。不備があっては旦那様の恥になります。私と使用人一同は完全徹夜で準備に当たりましたとも。


 何とか準備を終えつつあった当日の昼前。やって来たイルミーレ嬢は何だか色褪せたドレスに身を包んだひょろっと背の高い令嬢でした。彼女は馬車を降りるなりエルグリアの手であっという間に連れ去られてしまいましたので一瞬しか見えませんでしたが、旦那様がどうしてあんなに入れ込むのかは第一印象では分かりませんでした。


 しかし大ホールに旦那様のエスコートで現れたイルミーレ嬢は一変していました。皇族しか使えない大階段を下りてくるお二人に会場全員の注目が集まったのですが全く動じず、旦那様と対になる白いドレスに皇族に伝わる秘宝の数々で飾られたイルミーレ様は優雅な微笑みを浮かべ、会場を睥睨しています。まるで皇妃のような威厳すら感じます。私は旦那様がこの方を選ばれた理由を理解しました。


 しかし、何とした事か、イルミーレ様は旦那様のプロポーズに答えを返せず、卒倒して気を失ってしまいました。イルミーレ様に触れてはならない旦那様の代わりに私がイルミーレ様を助け起こしたのですが、あまりの細さ軽さにぎょっとしました。明らかに貴族女性の身体付きではありません。どういう事なのでしょう。私はティアラや壊れ易い宝飾品をそっと取り外し、イルミーレ様を彼女のお兄様に託しました。


 そのままイルミーレ様はお帰りになり、旦那様は意気消沈。していたのですが、軍務省から帰宅されるなり私とエルグリア、それと数人の信頼出来る侍女を集めて言われたのです。


「イルミーレは目を覚ましてプロポーズを受諾した後にここで療養している事にする」


 なので屋敷の皇妃用のお部屋を使用しているように見せ掛けるようにとの事です。他国の男爵令嬢にプロポーズを断られたなどというのはアルステイン様と公爵家、ひいては皇帝陛下の恥となります。療養と見せかけ、その間に本人は追って始末。その後「療養の甲斐なく亡くなった」としてアルステイン様の名誉を守るのでしょう。と、私は思ったのですが、アルステイン様はちょっと怖い笑顔で言います。


「直ぐにイルミーレを連れてくるから、それまで頼む」


 アルステイン様は諦めない男でございます。あれほどお気に入られたイルミーレ様を諦めるつもりは全く無いようです。


 やがて、ワクラ王国との戦役が勃発し、旦那様が出征して行かれます。何でも国境の勝利の余勢を駆ってワクラ国内に侵攻し、遂には王都を陥落させたとか。流石は旦那様です。帝都は旦那様の勝利を讃えてお祭り騒ぎになっているそうです。ワクラ王国は帝国の一部になる事が決まりました。旦那様の功績はもはや帝国の誰よりも大きい物になりました。これなら旦那様が皇位を継いでも誰も文句は言えないでしょう。


 と、そんなある日、旦那様より「ワクラ王国でイルミーレを保護した。無事に婚約も済ませた。そちらに一足先に送るからくれぐれも世話を頼む」との書簡が届きました。何がどうなっているのでしょう?フレブラント王国にお帰りになった筈のイルミーレ様がどうしてワクラ王国におられたのでしょう。何でも道中で戦火に巻き込まれ、逃げ出して下働きに身をやつしておられたのを旦那様が見つけて保護なさったとか。いやいや、時系列もおかしいですし、どうやって下働きに紛れたイルミーレ様を旦那様が見つけることが出来たのでしょうか。突っ込み所は満載ですが、旦那様が言うならそれが事実なのです。そうなのです。


 屋敷のエントランスから東館に至るまでに厳重に使用人の立ち入りを禁じ、到着なさったイルミーレ様を出迎えます。イルミーレ様は今現在東館で寝ておられる筈なのです。他の使用人に到着した所を見られると矛盾がバレて噂になってしまいます。


 地味な小さな馬車から降りて来られたイルミーレ様を見て私とエルグリア以下の「お嬢様付き」予定の侍女がギョッとします。何しろ着てる服がボロボロのお仕着せっぽい茶色のワンピースです。あちこちに汚れまで付いています。緋色の髪は乱暴に後ろで括られているだけ。そして以前に見た時よりも痛々しく痩せています。お疲れなのでしょう、表情も暗かったのです。私は以前にイルミーレ様を助け起こして驚いた時の事を思い出しました。


 私はこの方は実は男爵令嬢などでは無く、今見ている通りの平民であろうと思いました。それがどうして男爵令嬢を名乗っていたのか、その平民の彼女がどうして旦那様とご婚約なさったのかは分かりませんが。しかし私にとっては旦那様がお選びになったというのが一番重要な事です。あの旦那様が私が気が付いたような事に気付いて無いなどあり得ないですから。


 イルミーレ様は私達がいるのを見ると、ふっと姿勢を正しました。するとその一瞬で雰囲気が一変します。私たちも思わず姿勢を正してしまう程の変化です。立ち姿に気品が現れ、歩き方は優雅。そして柔らかな微笑。彼女は私達の前まで進み出て笑みを深めます。私は進み出て慌ててご挨拶をしました。


「お帰りなさいませお嬢様」


 するとイルミーレ様は息を呑むような美しい淑女の礼をします。汚いワンピースがドレスに変わったかの様な錯覚を起こします。そして微笑み、私たちをしっかり見ながら穏やかな声で挨拶を返しました。緊張も虚勢も怯えもありません。威厳と慈悲と奥行きを感じるだけでした。


「お久しぶりですね。皆さま。女神のご加護により皆様との再会が叶いまして嬉しく思います」


 その一瞬で私はイルミーレ様をお嬢様と認めました。これはどうも只者ではありません。




 私はお嬢様に帝国の歴史と地理を進講する予定でしたが、お嬢様のご希望により読み書きも教える事になりました。ところが直ぐに問題にぶつかりました。お嬢様は目がお悪く、本の文字が良く見えないようなのです。仕方が無いので当面は私が声に出してお読みし、後で拡大鏡を手に入れて使って頂く事にいたしました。


 お嬢様は歴史や地理の話を興味深くお聞きになり、要所要所で的確なご質問をされます。理解力はあるようで、お話していて非常に快適です。しかし、字がお書きになれずメモもノートも取れません。これでは覚えるのには時間が掛かるでしょう。


 翌日、お嬢様に昨日の部分は覚えましたか?と尋ねると、お嬢様は当たり前のように「覚えました」とお答えになります。?私は試しに質問してみました。


「では、帝国初代皇帝の名前はなんでしょう?」


「ヴェルゲ・コール・ヴァルシュバールです」


「・・・皇帝の三人の側近の名前は?」


「ビットン・エルガ・スティクトーン将軍。アーエル・フレイブ将軍。そしてエーレンス・フィキサ・チャルカス宰相です」


 私は耳を疑いました。一度しか読んで差し上げていない、長い人名をすべて記憶しているのです。他にもいくつか質問をしても全て正解が返ってきます。私は驚愕しましたがお嬢様は何という事も無い顔をしています。この日以降も一度授業をしただけですべての事柄を記憶してしまわれるので、歴史地理の授業は一か月掛からずに終了してしまいました。尋常ではない記憶力です。


 一方、文字の読み書きは私が入手してきた拡大鏡を本の上に置いてみせると「良く見える!」と大喜びなさいました。それで読む方はものすごい勢いで進歩なさいまして、こちらも一か月程で私の授業はいらなくなりました。ただ、拡大鏡は読むのには使えますが書くのには使えません。そのためどうしても字が上手く書けず、旦那様に送る手紙を書いて拡大鏡で自分で見ては悲し気な顔をなさっていました。


 私はお嬢様は恐らく平民であろうと思っていましたが、エルグリアもそう感じたようでした。彼女は仕事を終え自宅に帰宅した私に言いました。


「だって、畑を見たがったり臭い豚小屋に平然と入って行くのですよ?おかしいではありませんか」


 他にも手が異常に荒れていたり、見た目に反して非常に体力があったり、平民の下働きに気軽に声を掛けたりするらしいのです。ただ、作法や所作は完璧で、少し瑕疵があってもエルグリアが教えるとすぐに改めて以降はその通りにするそうです。物凄い記憶力と対応力、そして胆力の持ち主であることは間違い無いようでした。


「お嬢様は旦那様がお選びになったお方だよ。私たちがお仕えするのにそれ以上の理由が必要かい?」


 エルグリアはうっとなり、頷きましたが、その時はまだ納得が行かないような表情でした。


 しかし、お嬢様が皇妃様主催の園遊会に出るためお出かけになり、随伴したエルグリアはどうもそこでお嬢様の真価に触れたらしいのです。


「お嬢様は凄いです。あの方以外に旦那様の奥様に相応しい方はいらっしゃいません!」


 と大絶賛に変わりました。お嬢様は園遊会で、最初は完全に無視されていた状況を最終的には完全に覆し、皇妃様と親交を深める事までして完全に貴族女性社会に地歩を築いてみせたのだとか。その鮮やかさにエルグリアは感服し、完全にお嬢様に心服したようです。旦那様一筋二十年のエルグリアが旦那様以外をこれほど褒めるところは聞いた事がありません。夫である私すらこれほど讃えて貰ったことはありません。


「私、お嬢様を磨きに磨いて必ず旦那様に相応しいレディにして見せます!そしてお二人のお子の乳母になるのです!」


 と野望を語ります。まだあきらめていなかったのかその野望。そういえばその野望をお嬢様に滔々と話してしまったという件もありましたね。兎に角お嬢様は聞き上手で人と仲良くなるのがお上手で、今では屋敷の上級使用人は誰もがお嬢様と仲が良くお慕いしている状況です。お屋敷の中の雰囲気はすっかりお嬢様の色に染められてしまいました。


 ある日、私は突然お嬢様に呼び出されました。何だろうと思って行ってみると、お嬢様は廊下の掃除に不備があった事、その掃除をした下働きから東館の使用人が足りない事とその原因を聴いた事を語られました。そして表情を厳しくして私を叱責なさいました。


「一番悪いのはトマス。あなたですよ。あなたは家令としてこの屋敷の使用人を監督する責任があるはずです。下働きの働き方を把握していないのは怠慢でしょう」


 私は背筋が思わず伸びてしまいました。ここ数年、誰にも叱られた事などございません。お嬢様の叱責は私の慢心を直撃いたしました。私は改善を誓い、大至急使用人の各部門の長を集め、全員を叱責して業務の改善を指示します。その過程でお嬢様はお優しいが厳しい方であるので気を抜かないようにと教え込みます。これは私の自戒でもあります。


 お屋敷の雰囲気は引き締まりました。下級使用人や上級使用人の一部はこの頃からお嬢様を陰で「奥様」と既に呼び始めていました。




 旦那様のご不在は長引き、お嬢様は目に見えて元気を失われました。社交に出かける事も減り、一日の大半を旦那様の手紙を読み返して過ごしていらっしゃいます。私にも旦那様からの書簡は届いていますので旦那様がお嬢様を物凄く物凄く心配し、くれぐれもイルミーレを頼むと何度も私に頼んでいる事を知っていますが、お嬢様は段々と旦那様から愛されているという自信を失われたようでした。


 そしてある日、新たな旦那様の手紙を読んだ後泣き崩れてしまわれたようです。帰宅したエルグリアは出迎えようとした3歳の息子が逃げ出した程の、般若の様な表情で怒っていました。


「お嬢様をあのように悲しませるとはあの人でなし!許しません!」


 旦那様を人でなし扱いです。あまりの怒りに私も手が付けられず、猛然と旦那様宛の怒りの手紙を書き始めたエルグリアをそっとしておくより仕方がありませんでした。


 どうやらその手紙が効いたのか分かりませんが、程無く旦那様のご帰還が決まりました。お嬢様は勿論大喜びです。花咲くような表情で浮かれながら、それでも屋敷中を回って旦那様のお迎えの準備を指示し始めます。


「旦那様のお部屋の掃除をもう一度確認させて下さい。お布団は良くお休みになれるようにしっかり天日で干した方が良いでしょう」


「当日は咲いたお花をエントランスや廊下にたくさん飾りましょう。お疲れでしょうからお風呂に浮かべるのも良いですね。でも男の方はそういうのお嫌いかしら?」


「馬車に長く揺られてくるからあまり重い食べ物は食べられないかもしれないわ。メインは軽めにして、大丈夫そうなら皿を増やして対応しましょう」


 方々で細々した具体的な指示をして行きます。終いには「お嬢様はお綺麗になるのが一番のお仕事です!」とエルグリアに捕まり自室に連れ帰られていました。


 旦那様がお帰りになる当日。ご自分が到着なさった日とはまるっきり別人の、貴婦人の装いでお嬢様は待合室に現れました。これなら旦那様もご満足でしょう。兎に角何度も何度もイルミーレ様を磨いて綺麗にするようにと指示が出ていましたから。お嬢様は物音がする度にソワソワして立ち上がり、エルグリアに窘められています。


 そして先触れが来て私が旦那様の到着を告げると、駆け出すようにエントランスに出て行きます。いつもよりも優雅さの欠ける所作です。エルグリアが苦笑していました。ですが止めはしません。


 高速を出すための伝令が使う小さな馬車が入ってきました。あれで昼夜兼行で帰ってきたのでしょう。でなければワクラから5日で帰って来れるわけがありませんから。御者がドアを開けるのを待たずにドアを押し開き旦那様が飛び降りてきます。酷い格好です。風呂どころか髪も梳かさず髭も剃っていないのでしょう。軍服もよれよれで着崩しています。目の下にはクマまで出来ています。そのボロボロの格好が到着したばかりのイルミーレ様を思い起こさせて、何だか笑ってしまいました。


 旦那様は問答無用でお嬢様を抱き寄せ、あまりの力にお嬢様が悲鳴を上げています。その明るい声色にここの所の元気の無さを知っている使用人一同は思わずホロっとしてしましました。抱き合い見つめ合うお二人は見るからに仲睦まじいです。全く心配はなさそうです。このお二人が幸せになれるよう全力でお支えするのが私の使命であると再確認致しました。


 どうかお二人の前途に明るいものがありますよう、女神にも祈っておきましょう。

 


 


 

 

 

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