エピローグ

 


 その嵐は突然でした。


 家はもちろんのこと、村にあった何もかもを、夜の嵐は跡形もなく一晩で、吹き飛ばし消してしまったのです。

 目の前には、見渡す限り果てしない砂の景色が広がっています。

 森も、小川も、田んぼも見当たりません。

 全てが砂に埋まってしまいました。

 

 やけに明るい空を見上げてみれば、遥か高く無色透明な白い太陽が昇り、辺りを冷たく照らしています。


 皆、どこに行ってしまったのか。


 辺りを歩き回り、ようやく小山のような形に盛り上がる砂の塊をひとつ、ふたつと見つけました。茅葺き屋根の家が、建っていた辺りでしょうか。

 恐る恐る近寄ると、砂の中に埋もれた貝殻に似た片方のそれが半分ほど覗いているのが目に入りました。

 

 身体に巻き付いていた赤ん坊を背負う為の負ぶい紐は、いつの間にか蛇に変わり、腰の辺りで鎌首をもたげています。

 

 両手が塞がっていることを不思議に思い見下ろしてみれば、眼玉の無い達磨を大事そうに抱えているのでした。

 背中の赤ん坊は達磨だったのでしょうか。

 その抱える達磨が顔を向けているのは、砂に埋もれてしまった村です。無い眼玉には、何が映り、何を見ているというのでしょう。



 終わりを、見ているのでしょうか。

 始まりを、目にしているのでしょうか。



 

 ただただ、眩く白い光ばかりが身に沁みるのでした。




 

《了》

 

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『箱庭』 石濱ウミ @ashika21

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