投げ捨てた追憶

Eternal-Heart

【 YOU'RE THE RIGHT 】

苛立つ ____


対向車が途切れる

シフトダウン トロい前車を抜く

焦燥感と苛立ちまかせに飛ばす



あれから3年経つ。

何をいまさら。

追憶が浮かんでは、走り去る風景と共に流れてゆく。




人数が足りないと誘われた飲み会で

初めて会った。

彼女は同じ市内の短大生だった。


不思議なもので、意気投合する時は

初対面にも関わらず、話してすぐ歯車が合う。


帰り際に、お互いの電話番号を伝え

帰宅後すぐ番号を押した。


最初、話し中になったのは

偶然ふたりが同じタイミングで、かけたからだった。


取り留めのない話を、どちらとも終わらせたくなくて

気付いたら、窓の外が薄明るくなっていた。


 



途中のコンビニに駐車し、缶コーヒーを買う。

フェンダーに腰をもたせ、煙草に火を点ける。

結構走ったつもりだが、まだ半分位だ。

アイツは、遠い町から来たんだな。

彼女の地元の町へ行くのは初めてだ。




人伝いに彼女が結婚した事を知った

まあ、そうだろうな  何を今さら

もういいだろう



馬鹿な事を

自分でも分かってる


車のキーを掴んだ___





地元に彼氏がいることは

初めて会った時に聞いていた。

高校の2年先輩で、おそらく短大卒業後

地元に帰り結婚するだろうと。


俺を飲み会に誘った友達と、彼女の友達の4人で

集まって飲んだり、カラオケやドライブに行った。

今が楽しければ、それで良かった。

その時は。



独占したくなるのか

自分が染め尽くされてしまうのか

若さは、衝動を理性でコントロール出来ない





山間部の道は空いている。


彼女とドライブした時よく聴いていた曲。

『ラストショー』

ホント浜田省吾と氷室京介が好きだね。

そう言ってアイツはよく苦笑いしてたな。


通り過ぎた標識に、彼女の町が書かれていた。


 


アパート 夜 豪雨


彼女を送るつもりだった。

どうせ俺のものにはならない。

いつからそう思うようになったのか

自分でも分からない。


悔しさと奪いたい衝動で、抱き寄せた。

唇を重ね、肌に触れる。

繋がる事のない、二人の刹那的な時間を互いに貪った。


激しく窓を叩く雨音と、荒い吐息だけが記憶に蘇る。





駅前に、短いアーケードの商店街。

この町で生まれ育ったのか。

初めて来た、どこにでもあるような田舎町。



初めて来た町に車を巡らせていると、高校が見えた。

校門の前で停める。



彼女に体育祭、文化祭など

高校時代の思い出の写真を、見せてもらった事があった。

楽しそうだな。


自由も裁量権もなく、つまらない高校時代など

戻りたくもなかった俺には、

写真の中の彼女の笑顔の輝きが

羨ましかった。

 

 

その高校の脇の、細い登り坂を進む。

高台の公園。


静かで、きれいな所だから

時折、独りで過ごしていた、秘密の場所だと

アイツは言っていた。


ひと気もなく、町を見渡せる高台の公園。

ベンチに腰を下ろす。




忘れられない思い出が多いのではなく

喪失感だけを残して

記憶が身体から消えない。




どの位の時間、佇んだだろうか。


もういいだろう。




じゃあね


俺に手渡しバスに乗り去った

最後の姿


クロムハーツのネックレス

途切れた繋がりが掌に

だらんと垂れ下がったまま、見送った




もういいだろう




クロムハーツを外す


夕陽の高台から

投げた ____

 


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