朝マックもきゅもきゅ

 朝のマクドナルド。


 考えていた程、店内は穏やかでなかった。


 コーヒーとメープルシロップの香りが漂う朝のファストフード店。


 学生も意外に多く、以前来た時の記憶とは違った風景だ。


ちゃこ「ポテト、誰もポテト食べてないよ?」


 いや、食ってるだろ。


 どれが朝のポテトだか分かってないのだろう。


 

 当時はまだハッシュドポテトと言うものが庶民に親しまれていなかったように思うが、実はファミリーレストランなどで付け合わせとして提供されていることが少なくなかった。


 主にその形は俵型が多かったが、ジェンガのブロックくらいの形で提供されている事もあった。



桑藤「何か・・・ワクワクするね」


 ボソッと喋る桑藤さん。


 一体誰に言っているのかとも考えたが、今、俺の真横にいるので恐らく俺が相槌を打って正解だろう。


海人「桑藤さん、まさか、まさかだよね?」


 もしかして、またですか?


 と聞くようなトーンで桑藤さんに聞く。


桑藤「まさかって?」


 そうかい、ならストレートに聞いてあげるよ。


海人「朝マック、初めてなの?」


 まさかと聞いておきながら、俺は期待してしまっている。


 桑藤さんは、朝、マックに来たことが無い・・・と。


桑藤「え、うん」


 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!


 流石、流石だよ桑藤さん!!


石崎「あ、そうなんだ」


 わーお、石崎さんはあっさりじゃないですか。


 まぁ、ちゃこちゃんが食った事ないってぇ位だから不思議じゃないのだろう。


 俺にとっては信じられない程の事なのだが。


ちゃこ「ほらはるお君、代表で注文して」


 ・・・こ、コイツ・・・自分の間違えをあだ名にしやがった・・・。


海人「次はるおと言ったら、便所でおぼれさせるぞコノ」


 ちゃこちゃんはまゆげを限界まで上に上げ「おーこわいこわい」の表情。


 クソ・・・コケにしやがって。


 言い合いするのも面倒なので、大人しくパシられておく事にする。


 みんなから注文を聞きながら、また更に俺が店員のお姉さんへオーダーをする。


 その時のお姉さんの目線が気になる。


 度々女子達へ目線を移すのだ。


 後ろでちゃこちゃんあたりに何かされているのではと思い振り返るが、別にそう言う訳ではなさそうだ。


 だが気になる・・・。


 待 て よ 俺 、


 女子3名に男子1名って、コレさ、ハーレム図なんじゃないの??


 そんな高校生、いる??


 高校生じゃなくても見ないよなぁ。


 ・・・その違和感を感じてるのか? このお姉さんは。


 やべ、恥ずかしくなってきた・・・。


おねえさん「ほかにご注文はございますか?」


 そう言われハっとした俺は、最後の注文をする。


海人「あと、この子にぶっかける水を1杯ください」


 と言いながら、また摘まむ様な指の形でちゃ子ちゃんの頭に手を置く。


ちゃこ「どうして!」


 俺は相当高い位置まで顎を上げ、ちゃこちゃんを見下ろした。


おねえさん「かしこまりました」


 普通に注文として受けてくれたようだ。


 日本は平和である。


ちゃこ「嘘でしょ?!」


 そして本日はキチンと割り勘である。




 無事注文した品がカウンター横から提供された。


 紳士な俺は、紙コップに注いでもらった水をぶっかける事はない。


 飲み物とポテトだけが置かれているトレーは、桑藤さんが受け取った。


 マフィンやらパンケーキやらが乗っけられたトレーを俺が持つ。


 しかし片手で水の入ったコップだけを持ち、ちゃこちゃんと並走しながら席に向かう。


ちゃこ「も、物凄いプレッシャーだ・・・」


 朝からこんなアトミックバズーカを喰らいたくはないだろう?


 席まで大人しくしていなさい。



 しかし、この短時間でこんなに人と距離を縮められたのは生まれて初めてだ。


 軽く感謝しておくよ、軽くね。



 席に着いた女子達は、そう長い時間ゆっくりはしていられないのに世間話をしている。


 一方俺は朝食を食っていないし、大好きな朝マックが目の前にあるっつー事で夢中にむさぼる。


 う ま し !


 本日もよろしいのではなくて? マクドナルドさん。


 ミルクを飲みながら桑藤さんを見ると、じんわり笑顔でポテトをかじっている。


 うまいかい? うまいだろうねぇ!


 マックだからね!!


 でもまぁ、残念ながら、


 クレープには勝てないんだけどねコレが!!!!!!!


海人「どうですか? エッグマフィンとハッシュドポテトは」


 桑藤さんに聞く。


桑藤「たまにお外で嗅ぐこの匂い、マクドナルドの匂いだったんだね」


 そう言う返答が帰ってくるとは思わなかった。


桑藤「海人君は、よく朝来るの?」


 そう言いながら、またポテトをかじる桑藤さん。


 今日も両手を使ってお持ちですね。


 なんか、ヒマワリの種を貰ったハムスターみたいですねw


海人「いや、言う程頻繁には来ないねえ」


 俺も最後の一枚になったパンケーキに切れ目を入れ、口にほおばる。


 そして違和感に気が付いた。


 石崎さんがドリンクのストローに口を付けるかつけないかと言うような姿勢で、口を開けたまま桑藤さんを見つめている。


 しかし当の桑藤さんはじんわり笑ったままポテトを食べ続けている。


 ちゃこちゃんもマフィンをもきゅもきゅ食べながら桑藤さんを見ている。



 ・・・ナニコレ??



ちゃこ「えーと、桑藤さん? だよね?」


 ちゃこちゃんから初めて桑藤さんの名前が出てくる。


桑藤「はい」


 ポテトをトレーに置き、姿勢を正しちゃこちゃんを見る桑藤さん。


ちゃこ「桑藤さんはさ、はるおと仲いいの?」


 さっき最近仲良くなったんだと教えただろうが。


 忘れちまったのか?


 まて、それとも・・・


 もう一度聞く理由があったのだとしたら、ムネがざわつくヤツかもしれない。


 ちゃこちゃん、飛び越えた質問だけはしないでくれよ?


桑藤「・・・はるお?」


 わかる訳がない。


 君と石崎さんが歩いていた時、後ろで咲いた話なんだから。


ちゃこ「コノヒト、三波君と」


 俺の肩をベチベチ叩くちゃこちゃん。


 そろそろウメボシの刑か?


桑藤「あ、海人君の事?」


ちゃこ「そう」


 そしてまたもきゅもきゅ食べ出すちゃこちゃん。


桑藤「んー、仲がいい?・・・」


 そりゃそうだよな、その表情になるよ。


 お友達ですって言うにもまだそんなに付き合い長くないもの。


ちゃこ「桑藤さんさ、はるおの事好きでしょ?」





海人「・・・はい?」





 こ、コイツ・・・・


 何言いだすんだよバカなの?


 そんな事言われて、はいそうですねって言うかよ普通。


 てか、さっきも俺にそんな事言ってたな。


 ちゃこちゃんのあいさつ代わりなのか?



桑藤「えー、うん」








石崎・海人「はい??」








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

汐入る駅の下でいつも立っている君を弄びたい 三波海人 @minamikaito0111

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ