別れたヤンデレ元カノがストーカーしてきて困ってます

依奈

別れたのにどうして……


 紅葉の並木通りの真ん中で、篠山ささやま友樹ともきは彼女にこう別れを告げた。


「好きな人が出来たから別れてほしい」


(えぇー好きな人が出来た! 何それ殺す)


 友樹の彼女―梨野なしの瑞葉みずははヤンデレだがその事を友樹は知らない。瑞葉はすんなり別れを受け入れた。


「そう。分かった。じゃ、私たち別れましょ」


 ―――


 それから3週間後。


 瑞葉は友樹のインストアカウントを見つけた。


(あ、あった)

(ともくん、非公開アカウントになってるからフォローしなきゃ)


 瑞葉は友樹をフォローした。


 その頃、友樹は画像投稿の無い怪しい見る専アカウントだったから、申請拒否した。


 それでも瑞葉はめげない。

 フォローしまくった。ブロックされない程度に。


 そして、彼女はある考えに至った。


(ハッキングすればいいんじゃないっ?)


 一ヶ月かけてハッキングに成功した。これでFF外でも見れる! ラッキー。


(やっぱり時間が経過したともくんもカッコいい)


(相変わらず爽やかで素敵。私、幸せ。何て幸せなの)


 次々と画像が投稿されていった。毎日友樹のアカウントの画像を見るのが瑞葉の日課だった。


(こんな近くでともくんの顔が見れるなんて……)


 スマホを顔に押し付けてじろじろと友樹の顔を凝視した。


(えっ、何? これがともくんの彼女? 私よりブスじゃん! こんなのと付き合ってんの? 信じられない。殺してやる)


 そう思い至った瑞葉は友樹の彼女のアカウントに迷惑メッセージを送り付け、終いには害虫の画像まで送るほどだった。


(私とともくんの恋路の邪魔はさせない! 殺してやる!)


 そんな気持ちでいっぱいだった。


 友樹は『俺の元カノだと思うからブロックしていいよ』と彼女にメッセージを送った。


 それから被害は収まったのだが……


 友樹と瑞葉の会社は別である。会社までは知られていないはずなんだが、瑞葉はインストの友樹の奥に写っていた建物から友樹の会社をあぶり出し、特定した。


 それで今、絶賛尾行中である。


(あぁー後ろ姿のともくんも素敵! カッコいい! スーツ姿似合ってるー)


 会社に入るまで続いた。さすがに会社の中までは入らない。


 次の日も次の日も毎日のように会社への尾行は続いた。


 ある時、ふいに友樹が後ろを振り向いた。


「あの、瑞葉。そこで何やってるんだ? 会社に行かなくていいのか」


「あ、奇遇だね。私も丁度この駅に用があったの。久しぶり」


 はにかんで笑う彼女は無邪気なようにも見えるが、どこか小悪魔的だった。


「久しぶり。あの、話があるんだけど、俺の彼女に迷惑メッセージ送らなかったか?」


「何もしてないよ。もしかして私を疑ってる? 人違いじゃないかしら」


「そうか。じゃ、これで失礼する」


 友樹は(絶対、間違いなく瑞葉の仕業に違いない。その可能性が高い。今のは奇遇じゃなくて、ストーカーされてるんだ)と思った。もう気づいていた。警察に相談しようかも迷っていた。


 一方で瑞葉は(気づかれちゃった~やばい。ともくんと久しぶりに会話できて幸せ。声もあの頃のまま)と歓喜の気持ちでいっぱいだった。


 その次の日もそれからもストーカー行為は続けた。


 友樹はストーカーの存在に気付いていたが、困っていた。


 トイレで一人、(どうしたもんかなー)と悩み、(瑞葉と別れなければよかったのかなー)と頭を抱えていた。


 そんな中、瑞葉は夜にストーカーしよう、という考えに至った。


 思い立ったら実行開始だ。


 夜、会社から出てくる友樹を発見。ずっと待ち伏せをしていた。居酒屋で彼女と合流し、それから彼女と共に家に向かう友樹を尾行した。


(彼女いるのはチャンス!)と思った。


 家の特定はとっくの昔から終えていたが、特に用は無いから行かなかっただけだ。


 そして、家の前。瑞葉は忍ばせていたナイフを抜き出した。


 彼女は友樹と家に入ろうとしていた。


(何!? 隠れて同棲してんの?)


 その所を押さえ、瑞葉は二人に接近した。


 ナイフを掲げてニヤリと微笑し、

「ともくん、愛してる。やり直しましょう。これからよろしくお願いします」とお辞儀をし、

「私と付き合ってくれないとこの子殺すから」と告げ、

 友樹の彼女を人質にし、ナイフを突きつけた。


 その様子に二人の顔は顔面蒼白だった。




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