第12話

「は? なんであんたが健太郎と並んで歩いてんの?」



写真を見た瞬間、自分の中でどす黒い感情があふれ出すのを感じた。



咲紀に対して感じていたのと同じ感情だ。



「ち、違うの! その写真は美春の葬儀の時に送ってもらったヤツだと思う! 誰かがあたしを落とし入れるために、こんな写真を撮ったんだよ!」



一生懸命そう言う明日香に、あたしはもう1度写真を確認した。



葬儀の時、確かに健太郎は明日香を家まで送って行った。



あたしが頼んだのだから間違いじゃない。



だけど写真の中の2人は楽し気に笑いあっているのだ。



あの日の明日香は心配になるほど泣きじゃくっていたはずで、こんなに元気そうじゃなかった。



あたしは写真を机の上に叩きつけ、明日香を睨み付けた。



「本当に?」



低い声でそう聞くと、明日香は緊張で身を固くし、何度も頷いた。



「本当に葬儀の時の写真?」



もう1度質問をすると、今度は泣きそうな顔になってしまった。



あたしに嘘をつくことはできないと理解したのだろう。



観念したように大きく息を吐きだし、床に膝をついてしまった。



「本当は……葬儀の後、もう1度だけ送ってもらったことがあるの」



明日香の言葉に、プチンッと血管が切れる音が聞こえた気がした。



「なにそれ。なんで?」



そう質問しながら明日香を見下ろす。



明日香は小さく体を震わせながら、説明を始めた。



「葬儀の後の日に、偶然健太郎君と昇降口で鉢合わせになったの。ちょうど帰る時で、『今日は1人で大丈夫?』って声をかけられて、だからあたし――」



「『大丈夫じゃない』って返事したの?」



明日香の言葉を途中で遮ってそうきいた。



明日香は頷き、そのままうなだれてしまった。



人の彼氏だと知りながら健太郎に甘えるなんて、明日香の頭はどうかしてしまったんじゃないだろうか?



あたしの怖さは咲紀イジメの時に嫌というほど見せたはずだったのに。



あたしは呆れながら明日香を見下ろした。



「ごめんなさい! その日も1人でいるのが心細くて、だからつい……!」



「なにが『つい』だよ!」



あたしはそう怒鳴り、明日香の横にあった机を蹴り飛ばした。



机は横倒しに倒れ、大きな音が鳴り響く。



明日香は小さく悲鳴を上げて、身を縮めた。



「あんたさ、健太郎があたしの彼氏だって知ってるよね?」



そう聞きながら、明日香の前髪を掴み、顔を上げさせた。



その顔は青ざめ、目には涙が浮かんでいる。



それでも、辞める気なんてなかった。



人の彼氏に近づこうとした明日香が悪いのだ。



「ごめんなさい……」



明日香の声はひどく震えている。



「謝るくらいなら最初からやるなよ!」



あたしはそう怒鳴り、明日香の頬を殴った。



明日香は横倒しに倒れ、自分の身を守るように丸くなった。



「ふざけんなよ! 調子に乗りやがって!」



暴言を繰り返し、丸くなった明日香の背中を蹴り上げた。



明日香は小さく「うっ」とうめき声をあげるだけで、なんの反応も示さない。



文芸部のある場所は廊下の端だから、滅多に人が来ないことは明日香自身が良く分かっているのだろう。



「この、クソ女!」



そう言って再び手を上げた時、不意にノック音が聞こえてきて、あたしは動きを止めた。

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