第11話

美春の葬儀が終ると、あたしは再び文芸部で作品を作りはじめていた。



咲紀の日記をそのまま書いただけじゃすぐにバレてしまうから、色々と脚色する作業が必要になってくる。



そのため、日記はまだ半分以上残っている状態だった。



「愛奈、この前はありがとう」



明日香がそう声をかけて来たので、あたしは手を止めて顔を上げた。



「なにかしたっけ?」



「葬儀場で気を使ってくれたでしょ?」



あぁ、そんなことか。



結局健太郎は明日香のことを家まで送っていた。



いつまでも泣き止まない明日香を見て、さすがに気になったのだろう。



「おかげで、ちょっと元気が出た」



明日香はそう言い、鞄から小さなチョコレートを2つ取り出してあたしの机の上に置いた。



お礼のつもりみたいだ。



「ありがとう。ちょうど甘い物が欲しかったの」



頭を使う作業をすると、すぐに甘い物がほしくなってしまう。



「なぁんか不気味だよなぁ」



そう言ったのは修人だった。



最近、修人は新人賞へ向けて作品を作っているため忙しそうだったけれど、今日はやけに話しかけて来る。



煮詰まっているのかもしれない。



「不気味って?」



あたしがそう聞くと「この文芸部だよ。次々自殺者がでる」と、修人は言った。



その言葉にあたしは顔をしかめて修人をにらんだ。



咲紀は自殺だったかもしれないが、美春は違う。



自殺なんてする理由がなかった。



「美春は事故だったんだよ」



そう言うと、修人は首をかしげてあたしを見た。



「本当にそう思うか? 誰もいない線路に自分から落ちたんだぞ?」



「違う! 美春は誰かに背中を押されて――!」



「誰かって誰だよ? 見てないんだろ?」



「それは……」



修人の言葉に明日香はうつむいて、黙り込んでしまった。



すぐ近くにいたのに美春を助けられなかった。



明日香は相当悔しい思いをしているハズだ。



「もし本当に背中を押されたんだとしたら、それはきっと……咲紀の幽霊だ」



冗談半分の口調でそう言った修人。



しかし、『咲紀の幽霊』という言葉を聞いた瞬間、あたしは全身に鳥肌が立っていた。



体中の体温を奪われてしまうような寒気を感じて、自分の体を抱きしめた。



「なんだよ愛菜。怖いのか?」



笑いながらそう聞いてくる修人。



「怖いわけないでしょ。それに、幽霊なんているわけがない」



「そのわりに、顔色が良くないぞ? 咲紀に呪い殺されるとしたら、愛菜が1番最初だと思っただんだけどなぁ」



「いい加減にしてよ!」



修人の軽口に、思わずあたしは怒鳴り散らしていた。



明日香が驚いた顔をこちらへ向けている。



「気にしてるくせに」



修人はそう言い、チッと舌打ちをして自分の席へ戻って行ったのだった。


☆☆☆


仮に咲紀の呪いが現実にあったとしても、日記は自分の小説してしまってからじゃないと処分できない。



次のコンテストで入賞すれば、現役高校生作家としてデビューすることができるのだ。



そして咲紀の日記は大いにその可能性を秘めていた。



「今日も頑張って書かなくちゃ」



そう呟いて部室のドアを開けた時、先に来ていた明日香が慌てたようすで何かを隠すのが見えた。



「明日香。どうしたの?」



「な、なんでもないよ」



そう言って笑顔を浮かべているが、どうにも嘘くさい。



あたしは机に鞄を置くと真っ直ぐ明日香に近づいた。



後ろ手に何かを隠しているのがバレバレだ。



「なにを隠してるの?」



「何でもないってば。何も、隠してなんかないから」



左右に首をふる明日香はどこか必死だ。



あたしに見せたくないものなんだろう。



「なによ、あたしは部長だよ? 隠し事は許さない」



「だから、別になんでもないって――」



そう言う明日香の後ろに回り込み、あたしは明日香の持っていた紙を無理矢理奪い取った。



「あっ……」



瞬間にして明日香が青ざめる。



「なにこれ、写真?」



クシャクシャになった写真をちゃんと伸ばして確認すると、それは明日香と健太郎が2人で並んで歩いている場面だった。

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