第8話:第一章 4 | 続かない隠し事 ②

 マコトが跳んだ先は僕が住むマンションのすぐ側のコンビニだった。


 正確にはコンビニとその隣の雑貨屋の隙間だ。二店とも普段から良く使う店だが、マコトはこんな場所にもマーカーを仕込んでいたらしい。

 どうやら僕の生活圏にマーカーが隠してあるというのはマジのようだ。


 しかしケイナを部屋に拉致らちって来た時から分かっていたが、自分以外も瞬間移動させることができるのか。

 本人のマコト、僕、レン、ケイナを含め4人を一度に跳ばした。本当に僕の能力よりもよほどマシな能力らしい。


 しかし4人でこの狭い隙間に跳んだからそのぅ…凄いギュウギュウしてる! このお肉とっても柔らかいです!

 なんて、心の中で食レポ地味た感想を漏らしながら、でもまぁ現実逃避してる暇ないよねと僕の部屋の様子を見る。



「うわぁ…僕の部屋めっちゃ燃えてるじゃん。うっそだろ…マジかよ」


「レンも理事長も言ったでしょ? あんた狙われてんの。

 自覚しなさいよね…ていうかキスキどいて、身体ちょい当たってんだけど…」


「あ、ごめん。どく、どきます…」



 チッ、バレたか…惜しい。密着してたマコトから身体を離すと、「あっ、ちなみに私も身体当たってるけど別に気にしないしいいよ?」とかどっかの自称神様が言った気がしたが聞こえないフリをする。え、マジで? いいんですか、本当に?



「ていうかさっきの話に戻るけど、何で僕が狙われてるんだよ。部屋が燃えてる原因でもあるんだろ? 教えてくれ、理由わけを」


「いや、まずは安全な場所に移動しよう。襲撃してきた奴らが近くにいるかも分からない。マコト、まだ跳べるか?」


「4人連れて一気に跳ぶのはしんどいわね。さっきので思ったよりだいぶ負荷が掛かってる。でもまだギリギリ1回くらいはなんとかなると思う」



 よく見ればマコトは息を荒げて肩を上下させていた。疲労困憊ひろうこんぱいといった感じだ。

 なるほど、色々制限があると言っていたが恐らく重量か?

 もしくは自分以外を跳ばす時は数が増えるほど負担が増えるのかもしれない。



「ならその一回で真弾学園に跳ぶべきだ。

 実はあそこは不思議パワーで満ちていてね、入れさえすれはマコトさんの疲労も回復できるだろう。


 


「ごめんなさい。あたしの能力の制限の1つに距離があるのよ。

 ここからだと学校までは跳べない。行けて学校の近くの公園までだと思う」



 ケイナの提案にマコトは悔しそうな顔で返した。

 距離か。であれば最善の手は──



「さっき4人一気に跳ぶのはしんどいって言ってたよな? マコト1人で先に学校に跳んでから不思議パワーとやらで回復する。その後ここに戻ってきて、改めて4人で学校に跳ぶのはどうだ?」


「無理だね。不思議パワーは私達 神が学校に居て初めて機能するものなんだ。マコトさんだけで跳んでも恩恵は得られないよ。折衷案として、私とマコトさんの2人で学校に跳ぶって手ならあるが ──」


「それもごめんなさい。距離の制限はあたしのコンディションとは関係ない能力のルールなの。だから理事長と二人でもどっちみち公園までしか跳べないでしょう。そこであたしは意識が途切れる。そんなあたしを抱えて理事長だけで学校を目指すのは危険過ぎるわ」


「……そうか。学校の外の私は本当に無力だからね、もし襲われればマコトさんを抱えて逃げ切るのは厳しいだろう。むむぅ…困ったぞぅ、もし暴漢でも現れたらハニ君に初めてをあげる事ができなくなってしまう。チラッチラッ」



 これは本当に困った。今でも相当マコトは無理をしてるらしい。4人で跳ぼうと何人で跳ぼうと残り一回が限界リミット

 本当に困った、自称神様が変な事言い出して思考を乱すのも本当に困る。



「……マコトに気張ってもらって4人で公園まで跳ぼう。それから徒歩で学園を目指す。

 俺の能力ならある程度護衛できるし、マコトの意識が途切れても3人ならまだ安全に学園まで運べる筈だ。学園に辿り着ければマコトも回復するし理事長も加勢ができる。これしかない」


「それがいいだろうね。学園以外を目指して跳んだとして、その先で他の敵に会えば、私もマコトさんもロクに戦力になれず押し切られて終わるだろう」



 チラとマコトの様子を横目で見る。

 これでいけるだろうか。本当にいけるか? 見落としは無いか? 何より、フラフラのマコトは本当にもう一度跳べるのか?


 僕の向けた視線と、その視線の意味するところに気付いたのか、マコトは小さく笑って「だいじょうぶ。まかせて」とか細い声で告げた。

 そして深呼吸をして息を整える。相変わらず肩で息をしているし、フラフラしているけれど。



「それで、行きましょう。だいじょうぶ。自分の事は自分でよく分かってる。4人だとしてもあと一回ならなんとか跳べる。これは間違いないわ。そしてその後、意識が途切れるのも間違いない。2人の言う通り、この一回で公園に跳ぶべきよ、最悪足手まといになるなら、


「それはダメだ。お前を置いていけるわけないだろ。

 そんなので助けられても全然嬉しくない。4人で行くなら最後までだ! 全員で逃げ切るべきだ!」



 僕がそう言うと、マコトは呆気にとられた様子で数度瞬きをして下を向くと「……そうね、ありがとう」と小声でポショリと呟いた。

 やはり疲労が相当溜まっているのか、うつむく彼女の横顔はわずかに朱く染まっているように見える。



「マコトの言う事もまあ一つの選択肢として分かる。でも公園に置いたマコトが人質にされる可能性もあるだろ? それにそういう逃げ方は俺も気持ち悪い。4人で行くなら最後まで。俺もそれがいいと思う」



 レンの言葉にケイナも頷く。これで方針は決まった。

 うつむいていたマコトは「─よし。」と短く呟くと、顔を上げて微笑んだ。

 相変わらず疲労困憊といった感じの表情ではあったが、そこには僅かな余裕が戻っている。周りの言葉に安心したのかもしれない。



「……じゃあ行くわよ。全員あたしに掴まって。跳ぶ場所は学園の側の公園の茂みの中。学園までは100mくらいの位置よ。跳んだ直後すぐ動けなくなると思うけど、あたしの体お願いね」



 僕達はそれに頷いてマコトの肩に掴まる。

 そして。




「── ぶっ跳べジャンプ!!」




 マコトがそう言った瞬間、僕達の身体は路地裏から跡形もなく掻き消えた。


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