第5話 如月さんのアプローチ


翌月曜日の朝、俺はいつもの通学路を歩いていると信号で穂香と出会った。横断歩道を渡ってこっちに来る。

「おはよ。隼人」

「おはよ。穂香」

土曜日の後遺症は、無いみたいで良かった。


「隼人ごめんね。土曜日」

「うん、何が」

「せっかく、二人で出かけたのに途中で帰っちゃって」

「いいよ。それより買い物足りたの」

「それはいいの。隼人と居たいだけだったから」

「えっ」

最後の方が良く聞こえなかったけど。


やがて校門が見えてくると

「おはよ。隼人。鈴木さん」


俺の近所の幼馴染。中田幸三だ。

「おう、おはよ。幸三」

「お前ら朝から仲いいな。後ろから見ていると恋人みたいだな。へへへ」

「何言ってんの。それより中田君。昨日バスケの最終試合だったんじゃないの。どうだった」

「はあ、聞くなよ。二回戦敗退。これで秋の試合は俺の出番なさそう。まあ、受験勉強出来るけどな」

「そう。残念だったね。でも前向きな事は良いんじゃないの」

「ははは、幸三の良いところだな」

「あっ、俺こっちだから。じゃあな」

「おう」


幸三とはクラスが違う為、下駄箱で別れた。



教室に入ると

「おはよ」

「おはよ」


何も変わらない朝の挨拶。これがいい。少し心配だった土曜日の余韻を引き摺るかと思ったが、如月さんはいたって冷静。柏木さんも土曜の事等無かった様に友達と話している。


内心がっかりした様な気もするがこれで良いと思った俺は、自分の席に着き、平穏に午前中の授業を終わらすことが出来た。


 キンコーンカンコーン


昼休み。給食を食べ終わった俺は、サッと席を離れ図書室に向かう。図書室の奥は寝るにはうってつけ。時間になれば、図書委員が起こしてくれると言う目覚まし付きだ。


いつものように図書室の奥に行き、席に座ろうとすると


「立花君」

「えっ」

背中の途中まである髪の毛をポニーテールにして、大きな目をクリっとした如月星世から声を掛けられた。

「…如月さん」

「少し話して良いかな」

「うん」


「立花君、昼食後はいつもここに来るの」

「ああ、当番以外はね」

「そうなんだ」


如月は俺の手元を見て

「本読む予定だったの」

「あっ、良いよ。本はいつでも読めるし」

「何を読んでいるの」


ラノベ読んでいるとか言うと馬鹿にされるかな。うーん。仕方ない。

手元に置いてあった本を如月さんに渡すと

「へーっ、こういうの読んでいるんだ。どんなとこが良いの」

「うーん、何となく感性で会っているかな。主人公の努力する姿とか、成長するする姿とか、大切な人を守ろうとする姿とか」

「……そうか。面白そうだね。私のも読ませてくれる。もちろんこれ以外で」

「いいの。ラノベだよ。他の人に見つかったら馬鹿にされるかもしれないよ」

「他の人なんて関係ない。このジャンル読んで立花君とお話が出来ればいいよ」

「えっ、……」

「ふふふっ」

そういうと立ったままの姿で僕を覗き込む様にして来た。

不味い。視線に入る前に急ハンドルのごとく、首を横に振る。

「いいよ。家に色々な本有るから持ってきてあげる」

「あっ、嬉しいな」


「星世、そろそろ昼休み終わるよ」

「あっ、美緒。分かった。じゃあ、またね立花君」


いつもは、立花起きろ時間だぞと言って来る図書委員の人間目覚まし柏木美緒さんが、俺をじっと見ると

「立花君も早く教室に戻った方がいいよ」

「あ、ああ」


図書室の出口に向かう二人の後姿を見ながら、なんか如月さんのイメージ変わって来たな。どうしたんだろう。



如月さんが、帰って来た。何処に行っていたんだろう。隼人が教室を出たとたん、追いかける様に出て行ったけど。

 如月さんの姿を横目で見ていると隼人が帰って来た。

「隼人、どこ行っていたの」

「どこって、いつものとこだよ」

「図書室。寝てたの」

「いや、本を読もうと思ったけど如月さんが来て、話し込まれた」

「……そうなんだ」



如月さん、土曜の件以来、結構積極的だな。隼人が好きなのかな。うーん。嫌だな。でも私と如月さんが隼人を争うのもおかしいし。

 これじゃ、あの時と同じだよ。どうしよう。もう少し様子見るか。如月さん何か別の目的が有るのかもしれないし。


 キンコーンカンコーン


「ふう、今日も終わった。さて図書館に行こうかな」

穂香に声を掛けようとした時、如月さんが近づいて来た。視線が合ってしまい、穂香に声を掛けられずにいると

「立花君。今日買い物付き合ってくれない」

「「「…………」」」


クラス内では、成績優秀、可愛い美少女、長い髪をポニーテールにした女の子が、全く目立たない俺に声を掛けて来た。それもとんでもない事を言っている。


「いいでしょ。土曜日約束したよね」

「「「えっ、えっ、どういう事。如月さんと立花君、どういう関係」」」

「「「立花君。鈴木さんと付き合っていたんじゃ」」」


穂香を見ると冷たい視線を俺に流しながら

「隼人、いいんじゃない。私先帰るから」

そう言って、鞄を手に教室を出て行ってしまった。


断る理由が無くなった俺は、

「いいよ。行こうか」

「うん」



それから如月さんと俺は、家とは反対方向の電車で二つ先の駅まで行った。ここは、ショッピングモールは無いが、有名デパートがあるこの地域の中心街だ。

 如月さんは、買い物というより、ウィンドーショッピングをした後、学生もいっぱいいる〇ックに入った。

 話した事は普段の生活や勉強の事、進学の事等色々話した。入ってもう一時間半位経って帰らなくてはいけない時間になった時、

「ねえ、立花君。これからもこうしてくれる」

「えっ、でも」

「鈴木さんが気になるの」

「そう言う事じゃなくて。俺なんかじゃ、如月さんに悪いかなと思って」

「何を言っているか分からない。私は、立花君とこうしていたい。勉強も一緒にしたい。期末の試験勉強は一緒にしよう」

「う、うん。俺で良ければ」

「わーやったあ。じゃあもう一つお願いがある」

両手を拳にして体の脇でガッツポーズをを取る如月さん。


「なに」

「二人だけの時で良いから星世って呼んで」

「……。い、いや、それは、何というか。早いと言うか。」

「何が早いの。遅いとどうなるの」

うーっ、この子見た目と違って積極的。


「わ、分かった。名前で呼ぶよ。二人だけの時にね」

「じゃあ、練習。言ってみて」

「ほ、星世さん」

「さんも無し。もう一度」

「ほ、星世」

「うん、良く出来ました。私も隼人って呼ぶね」

「あ、ああ」


それから、俺達は、二人の当番の無い曜日と土曜日、偶に日曜日も一緒に居た。

映画を見たり、公園に行ったり、ゲームセンターに行ったり偶には勉強したりすることも有った。

 予想はしていたが、星世はゲームの類は全く初心者で、やるたびに残念そうな顔とウキウキした顔が交互に現れて見ていて楽しかった。


 土曜日には、偶にお互いの家に遊びに行って本の話とか、勉強とかしていた。

でも普通なら当然、そっちの事もあるのだろうけど、俺達はまだ中学生という意識といずれは告白して恋人同士になれば、出来るだろうという思いが、お互いに有った。


手も繋いだけどキスはまだしていない。星世がたまに俺の顔をじっと見る時はあったけど。

でもその分、学校の中ではなるべく近づかない様にした。約束は会っている時にしていた。

だから、あの時の放課後の如月のサプライズもみんな忘れて行った。


まだ、お互いに告白はしていなかった。



―――――


隼人君。憧れの如月さんと仲良くなれて良かったね。

でも穂香はどうするの。


次回をお楽しみに。

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