第二旗:スタートダッシュ

 創科太郎ソウカタロウ鳥宮浦羽トリミヤウラワ河越恵カワゴシケイの3人は、白い光に包まれ、気づけば野原の上にいた。


後ろは崖になっており、海がどこまでも広がっている。

しかし、不気味な海。波が一つなく、作り物のような...

そして、足元に広がる野原は、内陸部に向かい広がっており、奥には森、そして中央には高い山が綺麗な三角形のように上に伸びている。


 「ここがスタート地点か。」


太郎は、周りの状況を見てここが黒いフード男が白い空間で見せてくれたフィールドなのだと即座に理解した。


「あの山の頂上が、中心で山頂に旗があるとかそんな感じなんでしょうね」


鳥宮も冷静に状況を見回して言った。


「すごい綺麗な場所だねえー!さっ!しゅっぱーーーつ!」


元気よく河越は、右手を上げて言う。


すると、太郎は河越に

「河越さん、少し待って下さい。」

不思議そうな顔で鳥宮を見る河越。

それに対して頷く鳥宮。

そんな2人に目も向けずに太郎は、地面にあぐらをかき、腕時計を触り、ウインドウを出す。


鳥宮も地面に座り、腕時計のウインドウを見る。

ピンともこない様子の河越は、とりあえず2人と同じく座る。そんな様子の河越に鳥宮が説明する。


「恵、腕時計にルールと書かれた項目があるでしょ?」

「ホントだっ。ルールなんて項目あったんだね!気づかなかった!」


大きな成人男性の笑い声。

そんな時、200mぐらい離れた場所に他の生徒、そして教師がいる事に河越が気づいた。


ルールを一通り読み終わったのか太郎と鳥宮は、そちらに目を向ける。


「あれ、郷田先生ゴウダセンセイじゃない?

Aクラスの桶川原先生オケガワラセンセイもいる!あとAクラスのミクとルミちゃんかな??

タケシくんもいるね!」


指を差し、元気に言う河越とは対照的に少し警戒した面持ちの鳥宮。

郷田とタケシが屈伸している。

笑顔で応援している女子生徒2人と女性教師。


 いかにも体育会系の郷田は、筋肉隆々の体に白いタンクトップ。見た目通り体育教師だ。

郷田は、有名体育大学の卒業生で、現役時代はラグビーで有名な選手だった。

40歳になる現在もその辺の高校生よりも高い運動能力を持ち、校内でも有名な教師だ。


 その郷田の横でキラキラした笑顔で弟子の様に準備運動をするタケシは、陸上部のエースで短距離走の選手。体育測定でも学年上位の常連である。


 太郎は、そんな2人を見つめている。前髪で半分隠れた両目を見なくとも、その表情が無表情に近い事がわかる。


「では、桶川原先生達は、ここで待っててください!ささっと旗に触ってきますので!何の心配もいりません!ハハハッハハハッ!」


(たしかにチームの内、誰かが旗に一番最初に触れば勝ちだけど...)

太郎は、直前まで読み込んだルールをもう一度見る。

鳥宮は、まだ警戒した面持ちで郷田達を眺めている。

「郷田先生もタケシくんも足早いからやばいよ!うちら負けちゃうよー!」

相変わらずな元気な声で鳥宮を見て言う河越。


 郷田達チームは、こちらに気づいているようで、横目でチラチラ見ている。

申し訳ない。そんな雰囲気を感じられるのなら良いが、鼻で笑っているような....そんな気がする。

しかし、河越以外の二人に特に動揺はない。


「では!」

郷田がこちらに聞こえるように大声で桶川原先生、ミク、ルミの3人に言うと、クラウチングスタートの体勢からものすごいスピードで走り出す。


「人の歩く速度の平均は、時速4kmから早い人で時速5kmぐらい。マラソン選手で時速9km。」


心配そうに見ている河越に対して、鳥宮が言う。

河越を気遣ってか、いつもの冷たそうな表情を和らげて続ける。


「このフィールドは、直径50km。つまり旗までは25kmある。郷田先生のレベルなら時速7kmぐらいだと仮定して、3時間半ぐらいかしら」


「えーー!結構あっという間じゃんっ!」


河越も負けじと走り出そうとしたその時


「バッーーーン!!!」


何かが爆発したような音。

そして、それに続くように再び爆発音が遮蔽物がない野原に響く。


走り出した郷田とタケシ。まだ数十メートルぐらいだろう。


「地雷か.......」


太郎がポツリと呟く。


鳥宮は一瞬、恐怖が顔面を覆ったが冷静を保とうとしているのが表情でわかる。


「えっ?えっ?なになに?何が起きたの!?!?」


河越は、爆発の瞬間走り出そうとしていたのが幸いか郷田とタケシが爆発したところを見ていない。


郷田チームの待機女性3名は、大声で叫んでいる。

きっと腰が抜けているのだろう。ガクガクとしながら青ざめた顔で郷田とタケシの肉片を見ている。


そして、それに続くように、別の方向からも

爆発音が連続して聞こえる。こちらは1km以上は離れているだろうか。

かすかに人の叫び声なども聞こえる。


河越は、やっと状況が把握できたのか両膝から崩れ落ちた。

「そんな......」


 太郎は、近くに落ちている小石を拾い、少し野原を進むと内陸部に向かって、思いっきり小石を投げる。


すると「バッーーーンッ!」

先程より小さくまとまった爆発音とともに小石が破裂した。


地面を見ながら、何かを考えている太郎。

そんな中、鳥宮が口を開く。


「この数字はもしかすると参加している人数かしら」


腕時計から空中に映し出されたウインドウの右上に確かに小さく数字が書いてある。

『191』

太郎は、鳥宮の言葉を聞き、自分の方でも確かめる。


「ルールを読んだ時、確か『204』だったわ。

今は、減っているし、数字的に参加人数の可能性が高いと思う。」


確かに1クラス40人が5クラスあり、各クラスの担任教師が5名。

だが、Cクラスの担任の吉川先生の姿は、あの真っ白な空間の時に見ていない。


つまり204名...


そんな時数字が、急に減り出した。


『174』


そうウインドウに表示された後、しばらく見ていたが数字は動かなかった。

3人は、座りながら考えている。


「まず、数字が変わらなくなったのは、地雷原に皆が気づいて立ち往生しているんでしょうね」

鳥宮はそう言うと、郷田チームの方をチラッと見た。

郷田チームは、桶川原先生が、2人の女子を慰めながらも、どうすべきかわからずにその場にいた。


鳥宮に続けて、河越が口を開く。

「どうにか地雷を踏まないで進む方法とかないのかなぁー?」


「小石を投げながら地雷を爆発させて進むぐらいかしら」


そう言うと、鳥宮は腰を上げて小石を拾う。

さっき太郎がやったように同じ方向に小石を投げる。

すると.......


「バンッ!!」

「きゃーーーーーー!」


小石が弾けた音に反応し叫ぶ、郷田チームのミクとルミ。


太郎は、神妙な顔でジーっと鳥宮が小石を投げた方向を見ている。


「鳥宮さん、河越さん」


優しそうな声、しかしその中に不安や恐怖が感じ取れる。その声の主は桶川原先生であった。


3人に近づいてきた桶川原先生は、鳥宮と同じような丸眼鏡に20代とは見えない幼い顔で申し訳なさそうに口を開く。


「2人は大丈夫?もし良かったら、みんなで協力して何とかこの場所を乗り切りましょう?」


(調子良いな......)


 太郎はそう思ったが、他人に興味を持たず、持たれずの太郎からしたら当たり前であって、正直どうでもよかった。


「それいいですね!人が多い方が安心ですし、そうしましょ!!みんなで協力し合えば、良いアイデア出るかもだし!ねっ!浦羽!創科君!」


無理にいつもの元気を出そうと必死なのだろう...河越は、大袈裟に明るく言うと鳥宮と太郎の方を見て言った。


「そ....そうね。」


太郎は思う。

(鳥宮は、本心では、桶川原先生達と協力したところで現状を打破できるとは思っていない。ただ、河越の事を思ってだろうな....)


太郎にとってそういう感情は、理解したくない。しかし、心のどこかでそういう存在がいる事を羨ましくもあった。


桶川原先生達は、3人の横に移動してきたが、ミクもルミも抜け殻のようになっていて顔が青ざめている。


「創科君、何か気づいたかしら?」

鳥宮は、小さく声を出した。


「いや、わからない...」


太郎は何か違和感を感じてはいた。しかし、それがなんなのかまでは、わからないでいた。

鳥宮もそれを感じたから聞いたのだろう。


「そう....」


鳥宮もそういうと野原を眺めながら何かを考えていた。


とりあえず、しばらく考えながらもその場から動かずにいた太郎達3人と桶川原達3人の計6人は、結局約1日そこにいた。


しかし、それで分かったこともある。


・太陽はあり、朝、夜もある。

・睡眠欲はある。

・食べる飲むなどの概念がない。


まあ、これらの事が分かっても現状を打破できる解決策にはならないが...


人数も変わっておらず、まだ他の生徒も打開策は見出せていないだろうか?それとも何人かは、見つけたのか?そう考えていると太郎はある事に気がついた。


(何故、この野原にはカメがいるのだろうか。そしてカメは地雷を踏まないで動けるのだろうか。)


1日いて分かった事だが、今太郎達がいる野原には、小型のカメがいるのだ。しかも結構たくさんいる。逆に他の動物は特に見当たらない。


 (カメが地雷に反応しないのは、単純に重さだろうか。ある程度の重さが無いと反応しないとか?)


そして、昨日から一日中引っかかっていた違和感......もう少しでなんかわかる気がする太郎。


「バンッ」

「バーンッ」

「バンッ」


さっきから聞こえる爆発音は、鳥宮と桶川原先生が小石を投げている結果だ。

ある程度進んだエリアからどこに投げても爆発する。

地雷を爆発させていけばいい。単純であり、結局一番早い方法なのでは?

太郎もそう考えてはいたが、どこに投げても爆発するのだ。


[地雷は、爆発させてもまた復活してくる]

そうとしか考えられなかった。


「いたっあーーー」


鳥宮を見て、自分も投げようと決心したのか河越も小石を拾う。

投げようと助走をつけた時に何かに躓き転げてしまったようだ。


「大丈夫?恵、本当に危なかったわよ」

鳥宮が河越の土のついた部分を手で叩きながら土を落としている。


鳥宮の言う通り、実はもうちょっとで地雷原のラインだった。


太郎はその時、河越が持っていた小石が転げた際に河越の手から落ち、ラインを越えるまで転がっている事に気づいた。


(あれ?何故爆発しないんだ.....)


「もしかすると!」


珍しく声量を少し大きくし太郎は、近くの小石を拾い、河越の手から落ちた小石の辺りに投げる。


「バンッ」


太郎が投げた小石が爆発した。


太郎が珍しく動き出したものだから、河越は物珍しそうに太郎を見ている。

鳥宮は、何かに気づいたのか、太郎の投げた小石を見ている。


太郎は、ハッとした表情でいつもの暗い口調と違う明るい声で発した。

「なるほどね。もしかすると行けるかもしれない。」




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-Flag Wars- KOYASHIN @KOYASHIN

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