第10話 千話一夜

「一晩で千の話を書けたら、小説家になれるんじゃないか?」


 そんな奴の与太話をおれはただ聞いていた。深夜のファミレス、時刻は午前二時。毒にも薬にもならない夢が語られる時間帯。


「一晩が仮に、20時から……朝6時くらいとして、10時間。1時間で100話?1分で16話くらい?グッとガッツポーズして1話書くくらいじゃないと間に合わなくないか?」

「子どもが寝て起きる時間だいたいそんな感じだから結構現実的だな!子どもが起きるまでのデスマーチ!」

「いや、現実的ではねえよ。ガッツポーズしたら小説できんの?」

「まだ、な……」

「いつかできるみたいな雰囲気出すなよ」


目の前の友人は結婚して子どもが産まれて二児の父になっても何も変わってなかった。奥さんに理解があってよかったなぁと思う。


「もしガッツポーズでできた小説があれば読ませてくれ。メルカリで転売するから」

「『ガッツポーズしたらできた小説です!送料無料』的な?久しぶりに会った友達が冷たい……」

「まあぶっちゃけた話」


おれは深夜のファミレスで、夢に溢れた話をする。まあいいだろう。深夜のファミレスだし。


「お前がガッツポーズで小説書けなくても。たとえ千話書けなくても。

おれはお前が小説書いてくれたら読むと思うよ」


目の前にいる友達--高嶺一哉がぱあっと明るい顔になるのを確認しながら、おれ--千羽言夫は何だかむず痒くなってしまって、極めてどうでもいい事のように締めくくった。


「可能性の話だけどな」



(第10話 了)

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千夜一話 狐狸田すあま @suamama30

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