第1話 伝説の剣

 私が小学生だったとき、通学路は魔王城につながったデスロードだったし、幼馴染の男の子は魔王を倒すと予言された伝説の勇者だった。彼の武器はかの有名なアン・ブレーラ・シャイニングスパーク。そして私は魔王に攫われたお姫様だった。


「いっけー!!!ライトニング・シャウトーーー!!!」


 彼がそう叫んで水溜りを飛び越える。私はそれで彼がまた新しい英語を覚えたことを知る。彼とのデスロードは楽しくて、伝説の石オリハルコンを蹴って帰ったこともあるし、恐ろしい魔物ケルベロスを盾ランドシェルによる防御で切り抜けたこともある。


 学校から家までの帰り道、彼とたくさんの冒険をした。世界樹に木登りしたり、洞窟を探検したり、それはきっと、帰り道を長くしてくれたんだと思う。


 さよならをするとき、彼はいつも悲しそうな顔をしていた。

 彼は魔王を倒してはくれなかったから。


 魔王が滅びて、私が流浪の旅に出ることになったとき、彼は伝説の剣を私にくれた。骨は折れてたしビニールも破れてびろびろになっていたから、ただ粗大ゴミに出すのが惜しかっただけかもしれないけど。


 そしてそれきりそのまんま。

 傘を借りたまま返すこともできなくて、つい先日昔の実家に帰ったら、彼の家はとっくに引っ越していたらしく、知らない人たちが住んでいた。きっと他の村に出たモンスターを退治しに行ったんだろう。彼は勇者で、世界は彼を必要としていたのだから。

 私はその傘を、伝説の剣を世界樹の枝に引っ掛けておいておくことにした。

 そしてその側に家を借りた。デリバリーのアルバイトを始めた。転職して正社員になって、気の合うバイト仲間と結婚して子どもが産まれて。

 それからも、ずっと。


 いつか勇者が現れて伝説の剣を抜いてくれるのを、ずっと、ずっと待っている。


(第一話 了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る