戦火(後編)

 神主かんぬしが神託を請うて、果たしてそれを得た。の当主たちはそれを吟味し、確かなものと判断して、村長むらおさに告げた。

『祟りは。明日までに、山に逃げろ』

 村長と草分けたちは、夜に紛れて村人にそれを告げて回った。村人たちはその夜のうちに、谷から、洞窟から、岩陰から、こっそりとりでを離れた。

 ――明け方。さむらいたちが気がつくと、砦に村人がいない。

「何事だ!」

「さては――敵に通じたか!?」

 侍たちが怒るのと敵軍が本腰を入れて砦を攻めるのとは、ほぼ同時になった。石が飛び、弓矢が飛び交い、そして、――どこからともなく火の手が上がった。

 急拵えの砦は、生木なまきが多く燃えづらいはすだった。それなのに、呆気なく火の勢いが増す。敵も味方も、侍全てを火の渦に巻いていく。

 その日の夕方までには、全ては灰になっていた。

「何がの怒りを買ったのであろうなあ」

「わしらは助かったのじゃから、わしらへの怒りでは無いと思うのじゃが」

 村人たちは首を傾げていたという。


 ところで、砦だけが焼けたのでは無く、このとき当然ながら村も神社も、燃えてしまっている。

 なので、P村の戦国より昔の話は言い伝えと『系図』しか残って無いという話。


 ※ ※ ※


「えーと、つまり『ここまでの話は全て江戸以降に成立した嘘です』が有り得るってオチ?」

「そうは言ってないでしょ! 古い記録は全部燃えた、って正直に話してるだけですよ」

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折り畳み神話 歩弥丸 @hmmr03

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