ダム計画

 昭和の中頃、P村を含むこの辺り一帯にダム湖を作る計画が持ち上がった。P村にダム堤を作って谷川をき止め、隣のR町まで含めた大規模なダム湖を作りO市の水源と電力を一気に賄う、そんな計画だったらしい。

 R町では賛否両論激論の嵐が吹き荒れたという話だけど、それは省略する。

 P村では、反対一色になった。そうはいっても『お国のいうことは絶対』という雰囲気のまだ強い時代だし、村人は余所の『アカいひとたち(※村人談)』のことは決して受け容れようとしなかった。つまるところ、『反対だが、具体的にどうすればよいか分からない』というのが、P村の総意だった。

 その頃の神主さんは、村のの人々と相談した後、ある儀式を行った。儀式の中身は神主の家との家しか知らないけど、要するに『建設省のダム施工に関する役人の名を片っ端から神々に告げ、たたらせる』というものだったらしい(その頃は今ほど個人情報云々がうるさくなかったから、役人の配置や住所氏名生年月日くらいは調べようと思えば調べられたらしい)。

 最初に、現地に設計調査のために来ただけの末端の役人が倒れた。次に、その上役が倒れた。工事経理を担当する部署で倒れる人が出た。用地交渉を担当する部署でバタバタと倒れた。

 そして、仕舞いには、Q地方の建設省出先を取り纏める立場のひとが倒れた。

! 谷川に! 何かがこっちを見ている!!』

と、倒れた人々は口を揃えて言っていた、らしい。

 そうして、祟りでダム計画は流れたのだ――と、お年寄りたちは堅く信じている。


 ※ ※ ※


「いや、Rダム撤回運動は聞いたことあるけど――そういう話だっけ? 確かこう、R町の観光資源がどうこうと若者が決起して――」

「だからR町での運動がどうだったかまで知りませんって。ただ、でダム計画が止まった、ってことだけなんですよ、P村にとっては」

「そもそも誰が役人たちのうわごとを聞いてたのよ」

「それは……さあ……」

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