第12話

「うわっ!」

 僕はいきなり自分の隣に現れた異形の化け物から距離を大きく取った。

 異形の化け物の背丈は僕の三倍くらいで、足も手もないただの黒い物体。

 そこにいくつもの人の顔を浮かんでいた。

 そしてうかびあがっている人の顔の目からなんか黒い液体は流れている。

 口からは苦悶の声が漏れていた。

「うげ……」

 異世界での生活が長い僕ですら嫌悪感を抱かせる見た目だった。

 というか、どういうわけかこいつからは気配も魔力も感じられなかった。

 こ、攻撃していいのか。こいつは。

 異形の化け物は動かず、ただそこに呆然と立っている。

 というかどこから現れたんだ。

「うーあー!」

「うお!?」

 僕が目の前の異形の化け物に気を取られていて、背後から迫る人影に気づくのが遅れた。

 慌てて後ろから近づく人影から距離をとる。

「これは……?」

 僕に近づいて来ていた人影は顔がなく白い膜で覆われていた死体だった。

「……ゾンビ、か?」

 異世界にはゾンビと言われる死んだ死体がひとりでに動き生物を襲う魔物がいた。

 しかし、目の前のこいつはそのゾンビとは明らかに違っていた。

 ゾンビだけじゃない。

 異世界にいたどのアンデットも似てにつかない。

「うーあー」

「ちっ。やはり一体ではないのか」

 舌打ちを一つ。

 動き出した死体はそいつだけでなく、他のすべての死体もそうだった。

 どれくらいの強さなのかも完全にわからない化け物。……最悪だな。やっぱり僕の不幸体質は相変わらずいい仕事をする。

「【傲慢の権限:正典:神刀】」

 僕は神刀を顕現させる。

「輝け、聖剣」

 ユニークスキル【聖剣】も発動させ、準備満タン。

「さぁ、どこからでもかかってくるがいいよ」

「うーあー」

 僕は飛びかかっていた死体を一刀両断する。

 一刀両断された死体はそのまま動かなくなった。

 白い膜もなくなり、顔も元通りになっている。

「は?」

 僕の予想大きく裏切り、その死体たちはびっくりするくらい弱かった。

「神風残響流 千本桜」

 僕はびっくりするくらい簡単に全ての死体を切り倒すことができた。

 意味がわからない。

 それに異世界の場合はゾンビなどのアンデットを倒すと魔石を落とすのだが、こいつらは落とさなかった。

 何なんだ。

 どんな魔物であったも魔石は落とす。

 こいつらは魔物じゃないのか?

 ……あぁ、嫌な予感が止まらない。

 そして、あの化け物はうかんでいた人間の顔がなくなり、そしてボロボロと崩れ落ちていった。

 そして、最期に一つの魔石の欠片が残った。

 なんで欠片?

 それに魔石の欠片は異常なまでに大きかった。

 これが欠片じゃなくて一つの魔石となったらどれだけの大きさになるんだ?

 意味がわからない。

 僕は嫌な予感が止まらなかった。

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