第6話 見習い魔女は飛び降りた

 どうしよう。


 このままラブホテルであんなことや、こんなことをされてしまうんだろうか。


『別にいいじゃないですか、尻穴の一つや二つ……』

『俺には一つしかないんだよ!』

『慣れると気持ちいいって話ですよ~』

『そういう問題じゃない!』


 焦る俺と違って、シラーとベリーは満腹に脳ミソをやられちまったらしい。この状況を受け入れるなんて断固拒否だ。俺は美樹木の化身と結婚するって決めてるんだ。


『あ~もう眠いです』

『ことが済んだら起こしてよ。お尻に優しいパンツになってあげるからさ』


 そんな気遣いはいらぬ!!


 とりあえずいつでも逃げ出せるように窓を開けよう。でも箒がない。いざという時のために蓄えてある魔力を使って空を飛ぶにしても、酔ってるからペース配分を間違えて墜落するかもしれない。


 なにか、なにか方法はないだろうか……。


 とか考えていたら、良司さんはラブホテルをあっさり通り過ぎた。ずんずんとさらなる山奥へ車を進めていく。


「あ、あれ? えっと、どこまで行くんですか?」


 俺の問いに良司さんがゆっくり口を開いた。


「実は僕ね、今日会社を辞めたんだよ」

「へ? ああ、そうなんですか……」


 そんな日に奢ってもらって悪かったか?


「あ、お金のことは全然気にしなくていいよ。自分で言うのもなんだけど、貯金だけは凄いんだ僕」


 ハハハと笑う良司さんの雰囲気がえらく妙だ。


「それでね。辞めた理由なんだけど、セクハラだって若い部下に言われちゃって……全然心当たりがないんだけど、あれよあれよと話がすすんじゃって。実質、即日解雇ってわけなんだ」

「そ、それは大変でしたね」


 それ以外に言葉が出てこない。


「帰宅したら自分の人生なんだったんだろうって考えちゃって。結婚もせずにずっと仕事一筋……立ったまま動けなくなったんだ。そしたらみどり君から連絡があったんだよ。本当、今日の晩御飯は楽しかったなぁ。ありがとうね」

「いえ、こちらこそです。ありがとうございます」


 正社員になったことのない俺には分からないが、きっとずっと勤めた職場を辞めるのって辛いんだろう。しかもその原因が訳の分からない濡れ衣なら尚更。


「おわっ!?」


 ガシャンッと金属を引き千切る音と、小さな衝撃を感じた。とたんにガタガタの山道になった。


「みどり君。この先にね、大きな崖があるんだよ」


 車の一気にスピードが上がったせいで、上下左右に激しく揺られる。さっきの飲み食いした物が出てきそう……ヤバいぞ。これはかなりヤバい。


「僕、みどり君とならどこへでも行ける気がするんだ。今もほら、二人で新しい世界へ行けると思うとワクワクするんだ」


 もう前も見ずに良司さんが穏やかな笑顔を俺に向けてくる。瞳孔ガン開きだけど。 ああ、良司さんが次に何て言うか分かる。魔法とか関係なくハッキリと分かる!!


 良司さんがアクセルを目一杯踏み込んだのだろう。既に獣道を走っている車が枯葉すらつけていない低木を次々と薙ぎ倒していく。


「みどり君。ぼくと一緒に死んでくれ!」


 はい、キターーーーーーー!!!


 その瞬間、車は崖から勢いよく飛び出した。

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