第7話 見習い魔女と新しい使い魔

 ダメなタイプの浮遊感が腹の底から込み上げてくる。しかしそんなことはどうでも良い。


「良司さんが死にたがってたなんて、俺嬉しいです!」

「へ? ああ、嬉しいよ。みどり君!」


 落下中だというのに良司さんが涙目になって微笑んでいる。


 いやいや、嬉しさでいえば断然俺の方が上だ。ずっと今の良司さんみたいな死にたがってる人に会いたかったんだよ。神様ありがとーう!


 なんだなんだ~、死にたいなら早く言ってくれればよかったのに。


「シラー、ベリー! 起きろ! やっと見つけたぞーー!」

「ふがっ!?」

『なに~? もう終わったの~?』


 せっかくのチャンス。魔力をケチるのは止めだ。


 俺は溜め込んでいた魔力を解放。落ちていく車のボディを突き破って空中へ躍り出た。もちろん、片手に良司さんを掴んでいる。車も反対の手で掴み崖の上へ投げる。大事故を防ぐなんて偉いぞ俺。


 そして山肌から突き出た岩場に降りたって、唖然とする良司さんの肩に両手を置く。


「死ぬならいいですよね? 俺がもらっていいよね?」

「え……?」

「返事はうん、もしくはイエスですよ!」

「イ、イエス……」


 きょとんとしている良司の額から血が出ている。手間が省けて良いことだ。


「よしよし、今から儀式をするんで、絶対動かないでくださいね。絶対ですよ!」


 まず俺の手首を噛み千切り血を用意する。そして良司さんの血と俺の血を混ぜる。次に良司さんと俺の周りにそれぞれやったら難しい魔法陣を描いていく。魔力を纏っているから昼間のように見えるし血も乾かない……よし、完成。


「あ、あの、みどり君?」

「そのままそのまま。リラックスですよリラ~ックス」


 良司さんに深呼吸させて準備完了。


「シラー、ベリー。全力でやるぞ」

「ふぁ……はい……」

『へいへい』


 魔法陣に魔力を流し呪文を唱えていく。


 俺の髪と目の色が元に戻る。シラーはペンギン姿に、ベリーはローブ姿になって魔力を注いでくれる。すると緑色の光が俺と良司さんを包んでいき、能天気なあのちんちくりんと親父の声が一瞬聞こえた。


 徐々に魔法陣が浮かび始める。それはしだいに赤い木の根に変じると、良司さんの心臓を貫いてから俺に巻き付いた。


「我が名は竜胆白緑。真名をアルイード・コルキス・ロシティヌア』

「同じくシラー・ペルビアナ」

「同じくクリソ・ベリル」


 眠たそうなまま、シラーとベリーが空中で不思議な踊り踊りながら周囲を回っていく。赤い根は白緑色、青紫色、黒緑色と変色してき、良血を巻き散らしながらビクビクと痙攣している良司さんをキツく締め上げていった。


「汝、良司を我が使い魔としてここに指名する」

「する~」

『する~』


 再び白緑色になった木の根は、全体に魔法陣の文字を浮かび上がらせ螺旋状となり、俺と良司さんの周りで回り始めた。


「世の理が尽きるまで、汝は永遠に祈りを捧げ我が為にのみその命を行使せよ」

「せよ~」

『せよ~』


 木の根が弾け飛び、煌めく粒子となって俺と良司さんの中に吸い込まれていった。


 おお! 良司さんとの確かな繋がりを感じる。


「や、やった、成功した……ぞ。これで俺も、この世界の使い魔持ちだ。しかもなかなか成功しない人間で」


 冷たい岩場に座り込んだ俺に、シラーとベリーが寄ってきて肩を叩いてくれる。


 成功して良かった。失敗したら死体が一個転がるだけ。そうなったら後始末が大変だったろうな。溜めてた魔力はほとんど無くなったが、結果は上々じゃないだろうか。


「さて、ちょっと休憩したら帰ろう。良司さんの家や私物なんかは後日回収で……ああ疲れた」


 けれど心地よい疲れだ。明日は同期の皆に俺の使い魔を自慢してやろうと思う。

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