40話 新たな勇者の資格を手に入れる

「全員、集まったみたいだな」


 森の中に、20人以上の勇者候補が集結していた。


 意地の悪い笑みを浮かべた男が仕切っている。


「俺は勇者の称号には興味がない。だが、あのゴーレム使いには用がある。あの男には勇者になってもらっては困るのさ。だからこうして、1人金貨50枚なんて大金を渡してお前たちを抱きこんだわけだ」


 集まった勇者候補は全員、ずっしりと重い袋を抱えている。


 『個人ではこんな金額は出せない。この男の背後には、巨大な組織がある』


 金を受け取った勇者候補達は全員そのことに気付いているが、誰も口には出さない。


「さぁ行くぞ。あのゴーレム使いを完膚なきまでに、冒険者としての自信をなくすほどに叩きのめしてくれ!」


「「「おおおおおぉー!」」」


 勇者候補達は、ナットの砦へ向かって侵攻し始めた。


――――


 砦の中は、複雑に壁が入り組む迷宮になっていた


 1人の勇者候補が迷宮の壁を登る。すると、塔からゴーレムたちが一斉に矢を射かけてきた。


 勇者候補が慌てて壁から降りる。


「壁は登れないな。壊すのも時間がかかる。2手に分かれて迷宮を攻略するぞ」


 金で勇者候補達を雇った男の指示で、勇者候補達が迷宮を進んでいく。


「うわ!?」


 1人の勇者候補が悲鳴を上げる。


 勇者候補は、落とし穴にはまっていた。それもかなり深い


「クリスタルは無事だ! こんな穴程度でケガする俺たちじゃねぇ。這い上がりさえすればふぐ復帰できる!」


”バキン!”


「……え?」


 落とし穴に落ちた勇者候補が自分の胸元を見ると、小型のゴーレムがクリスタルを破壊していた。


 落とし穴にあらかじめ潜んでいたのだ。


 こうして落とし穴に落ちた勇者候補は脱落した。


「やられた、落とし穴の中にも使い魔がいる!」


 1人の勇者候補が叫ぶと、呼ばれたかのように迷宮の奥から巨体のゴーレムが現れる。そして、別の通路からも。


「ヤバい! 巨大使い魔だ、挟み撃ちにされる前に逃げろ!」


 勇者候補たちがパニックになって逃げる。そして、落とし穴に落ちていく。


 迷宮の奥から、今度は赤いミニゴーレムが現れた。


「なんだ? こんなちっこい使い魔ごときで俺たちを止められ――」


 爆発。


 赤いミニゴーレムの中の火薬がさく裂し、近くにいた勇者候補を吹き飛ばす。


 壁に叩きつけられる勇者候補。衝撃でクリスタルは壊れていた。


「やばい、中に火薬が入ってる! この赤い小さい使い魔が一番危険だ!」


 迷宮の奥から、わらわらと赤いミニゴーレムが出てくる。


「「うわあああああァ! いっぱい出てきた!!」」


 パニックになった勇者候補達が迷宮の中を逃げ惑う。


 本当は火薬入りゴーレムを作るには時間がかかるので、本物の火薬入りゴーレムは1体だけで残りはただ赤く塗っただけのミニゴーレムなのだが、勇者候補達がそんなことを知るはずもない。


 勇者候補達はもう、無様に逃げ惑うことしかできなかった。


 あるものはミニゴーレムの爆発でクリスタルを破壊され、


 あるものは落とし穴に落ち、


 あるものは大型ゴーレムに叩きのめされ、


 砦に突入した勇者候補は全滅した。


『勇者候補が最後の1人となった! 試験終了だ!』


 魔法で拡大された試験監督マキオスの声が、山中に響く。


『ナット=ソイルレット君。おめでとう、君が新しい勇者だ!』

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