22話 ゴーレムの力が人々に認められ始める

 冒険者ギルドにアダマンタイトの採掘クエストを発注した鍛冶屋に、僕とアルカは来ている。


 アダマンタイトの納品と、採掘用ゴーレムの紹介のためだ。


「……ま、まずは採掘してきたアダマンタイトからだ。本物かどうか、鑑定させてもらう」


 鍛冶屋さんの父親が、震える手で鉱石をルーペで調べる。


「――――信じられねぇ、本物のアダマンタイト鉱石だ。それがこんなに沢山……!?」

「本当かよ親父! これだけの、これだけのアダマンタイトがあれば! しばらく採掘に行かなくて済むぞ!」


 鍛冶屋さんの親子は、額に大量の汗をかいていた。 


 アダマンタイトの採掘などの、採取系のクエストは、一回の納品量が決められている。


 そして、何回か分の量を納品した時は、複数回クリアした扱いにしてもらえるのだ。


 つまり。


「1回のクエストの納品量の300倍のアダマンタイト……つまり、300回クエストをクリアした扱いになるわけだな。受け取ってくれ、300回分の報酬だ」


 鍛冶屋さんの父親がが、店の奥から金庫ごと報酬金を持ってきてくれた。


「で、そっちのデカいのが採掘用ゴーレムってやつか?」


「はい。火山ふもとまで馬車で送ってあげて、メンテナンスと魔力の供給さえすれば勝手にアダマンタイトを採ってきてくれます。ここにあるアダマンタイトの半分は、このゴーレムが採ってきてくれました」


 鍛冶屋さんの親子が改めて荷台に乗ったアダマンタイトを見る。


「凄いっすよ! クエスト150回分のアダマンタイトを1回で採ってくるなんて! しかも安全に採ってきてくれるなんて、いうことなしっす!!」


 鍛冶屋さんが僕の手を握ってブンブンと上下に振りまくる。


「で、いくらっすかこのゴーレム!? 俺、いくらでも出しますよ!」


「え、えーと……」


 しまった。


 趣味で作ったものだから、いくらで売るとかそういうことは考えていなかった。


 まぁ材料代はそこそこかかっているので、タダというのは確かに僕が損をするかもしれない。


 新しいゴーレムを色々と試せたので、後で使用感などを教えてくれれば全然タダでもよいのだけれど、安売りし過ぎもよくないかもしれない。


 材料代+おまけ程度をもらっておこう。価格にして大体、銀貨3枚分くらいか。


 ……いや待てよ。


 今アダマンタイトの納品分で、店の金庫ごともらったところじゃないか。


 現金はもうお店にないかも知れない。


 ――そこで僕は閃いた。


「では、お店の商品と交換というのはどうでしょうか?」


「え、いいんですか? うちの店にはこんな立派なゴーレムと釣り合うような商品なんておいてないんすけど……?」


 僕は店に並んだ商品をざっと眺める。


 アルカの剣はお金が入る前に買った駆け出し冒険者向けの安い品だったし、ここらで買い換えても良さそうだ。


「じゃあこの、銀貨3枚の剣とゴーレムを交換、でどうですか?」


「ええ!?」


 ……まずい、もしかしてぼったくり過ぎたか?


「そんなお手頃価格の剣で良いんですか!? もっとこっちの高いのでも! いえ、それでもまだ全然つり合いが取れませんが……!」


 結局、鍛冶屋さんに一番高い剣を押し付けられてしまった。


 いいのかな、こんな立派なものをもらってしまって……?


「そうだ、別件なんですが。アルカのために軽鎧を1つ注文しても良いですか?」


「もちろんす! 恩人であるナットさんとアルカさんのためなら、全力でやらせてもらうっす!」


 鍛冶屋さんが力こぶを作るポーズを取る。


「おい坊主、ちょっとこっちへ来い」


 突然、さっきからずっと腕組していた鍛冶屋さんの父親から呼びかけられる。


 そして、店の奥の部屋に手招きする。


「親父、ナットさんに何の用だよ!? ナットさんに失礼なこというつもりじゃねえだろうな!」


「うるせぇ、お前はくるんじゃねぇ」


 僕は鍛冶屋さんの父親と2人、店の奥へ歩いていく。


 ……なんだろう? 僕は何か怒らせるようなことをしたか!? 


 職人って分からない! 何が失礼に当たったんだ??


 バタン、と部屋の扉が閉じる。


「ありがとうよ、坊主」


 扉がしまると同時に、鍛冶屋さんの父親は地面に手と頭をつけていた。


「……え?」


「ありがとう、本っっっっっっ当にありがとう!! これで俺は、息子に安心して店を渡してやれる……!!」


 鍛冶屋さんの父親の目からは、涙があふれ出ていた。


「俺は本当は誰より息子の鍛冶屋の才能と、仕事への愛情を認めているんだ……! でも、アダマンタイトの採掘に行って、もし息子が死じまったらと思うと…………。俺は怖くなって、息子に鍛冶をやめろっていうしかなかったんだ……!!」


 地面に頭をつけ、号泣しながら鍛冶屋さんの父親は続ける。


「これで、息子に鍛冶を続けさせてやれる。ありがとう、本当にありがとう! この恩は命を使っても返しきれねぇが、俺にできることなら何だってやる! いつでも頼ってくれ!!」


「わ、わかりました……?」


 正直、僕は今とても戸惑っている。


 まさかこんなにも感謝されるとは思わなかった。


 しかし、それほどゴーレムが役に立ってくれるということだろう。


 気まぐれで作ったものだが、僕は採掘用ゴーレムを誇らしく思った。

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