荒ぶる七海

「海ちゃん部活に入ったの!?」


 夕飯時、何となしにオカルト研究部の話をしたら七海が目を見開いて驚いた。


「怠惰の塊な海ちゃんが! 七つの大罪の一柱としてそれはどうよ!」

「大層なものを担わせるな!」


 どんな設定だ。初耳だぞ。

 ……そんなに怠惰なイメージがあるのか? インドアではあるけど、こっちに来てからは結構精力的に活動してるんだけどなあ。

 本土の時はマジで出不精だったけど。


「ちなみに私は暴食の七海、よろしくね!」

「つまりお腹が空いたと」

「うん!」


 だそうです。

 運動部はカロリー消費が激しいものね。


「はいはーい、今作ってますよー」

「はーい!」


 台所から七瀬さんの声がする。

 まだ時間は早いが七海の様子を見て用意してくれているのだろう。

 今日は海鮮丼らしい。楽しみだ。

 やっぱり、こっちは海鮮類が美味しい。

 俺と七海は晩御飯を想像し、腹の音を奏でる。

 七海はハッと我に返り、お腹を押さえて顔を赤くする。が、今更恥じても遅い。


「そ、その目やめてよ」

「どんな目だよ」

「人を蔑む目」

「人聞きが悪いこと言わないで!?」


 恐ろしい子。

 恥を隠すためにありもしない罪を擦り付けてくるなんて……。


「それよりウチにオカルト研究部なんてあったっけ?」


 悪びれもせずに話を戻す。

 冗談なのはわかってるけど言葉にするのは大事だぞ。ちょっとだけ不安になってくるじゃないか。


「まあ、同好会だしな」


 正確には同好会になる予定。

 アンナのやつ、ちゃんと申請書を出すのだろうか。あの後、一緒に帰ったから職員室には行っていないが。

 ……待てよ。あの部屋を借りられるコネがあるのだから口頭で済むのかもしれない。


「同好会かあ。でも、面白そうだよね」

「ホラー苦手だろ?」

「ちっちっち、苦手なのと嫌いなのは違うのだよ」


 ホラー映画を一人では見れないレベルで何を言う。

 などどいいたくもなるが、実際に違いがあるのはわかる。怖いもの見たさってやつだな。


「それに宇宙人と友達になるとかなら好きだよ、怖くないし」

「友好的ならな」

「敵対的な宇宙人はノーセンキュー」


 手でバッテンの形を作り、唇をすぼめる。

 

「海ちゃんはどっち派?」

「どっち?」

「友好的な宇宙人か、敵対的な宇宙人」

「後者選ぶ理由がないね!」

「わからないよー。世の中には海ちゃんの知らない猛者たちがうようよといるんだから」

「まるで自分は知ってるかのように」

「拳で語れ!」


 今日の七海は何時にもまして脳筋だ。

 部活で良いことでもあったのだろうか。それとも練習しすぎてハイになってるのか。


「そういえば海月島には未確認生物が潜んでいるーって噂があるよね」

「そうなのか?」


 初耳だった。


「名前は忘れちゃったけど、何とかって生き物がいるかもしれないって一時期騒がれてたよ」


 テレビ局が来たこともあるらしい。

 たまに未確認生物を扱った番組あったな、そういえば。


「珍しい海獣がいるとかは聞いたことあったけど未確認生物は知らなかったなあ」

「珍しい生き物やら植物ならいっぱいあるし」


 最も七海たちにとっては見慣れたものであることが多いのだが。


「大きな研究所もできたしね」

「へえ」


 前々から研究施設はあったが、島の裏手側に大きな物を建てたらしい。

 そのため、例年に比べて本土からやってきた学生が多いとのこと。


「悠オジサンたちは嫌がってるけど」

「……ふーん」


 七海家の歴史は古く、海月島の伝承を受け継ぐ一族だったとか。

 中身はとっくに途絶えてしまったわけだが、それでも海月島をあさられるのは嫌なのだろう。

 これも血だろうか。俺も聞いていて少し嫌な気持ちになった。

 七海も同じなのか表情は明るくない。


「研究所より遊園地とか出来て欲しかったなあ」


 少し場が暗くなってしまったので七海が話を変える。

 海月島には遊園地やボウリングなどの娯楽施設はほとんどない。


「自然環境を保つためだから仕方がないけど……」

「そこら辺はバランスを見るしかあるまいね」


 俺だって欲しい施設は色々とある。


「……そういえば、本土に比べて何もないとは思うけど不満はないな」

「そうなの? 私はあるよー。カラオケ一軒は死活問題だよ」

「俺は行かないからな」

「音痴だもんね」


 うるせえ。


「時代の進化のおかげもあるけどな。ネットで大概済ませられるし」

「便利だよね~」

「まあ、一番はみんながいるからだけどな」

「うに?」


 気力を失い、スライムのように机に突っ伏している七海が変な鳴き声を上げる。

 その姿にふっと笑いをこぼしつつ、


「七海といると楽しいなってことだよ」

「っ!」

「ご飯できたわよ」

「おっ、ご飯できたってよ」


 七瀬さんの呼びかけに立ち上がり、七海と行こうとしたのだが、何故か七海は逆方向を向いて黙っている。

 起き上がる気配もないのでもう一度呼びかけるが反応はない。


「七海?」

「……い」

「はい?」

「海ちゃんバーカ! お腹空いたー!」


 勢いよく起き上がった七海は俺に罵声を浴びせ、素早く台所に姿を消すのだった。

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故郷には幼馴染がいっぱいいた @kabakaba

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