冬の夜にはマフラーを

恋愛の指南書にはこうかいてある

寒い日はそっと手を繋ごうって

私の大好きな曲もアーティストも

きっとみんなそう言うに違いない


だけどこんなにも君の手が遠くて

私ははずかしくてどうしようもない

ポケットの中にしまったままの手を

手持ち無沙汰に開いて閉じての繰り返し

「ねえ、寒いから繋いでよ」

いつもの笑顔でそう言いたいのに


今日が終わるまであと少し 

終電までには伝えたいの 

言葉にならないままでいいから

君ともう少し触れ合えばそれでいいんだ


静かなふたりを包み込むように

降り始めた雪は神様がくれた演出で

ふたりその顔を見合わせて

その眼に引き寄せられていく


ねえ私たち、今きっと心の中で

沢山言い訳を考えているんだろうな

私も同じだよ 君だけじゃない

言い訳はあとで聞いてあげるから

ねえ、そのままもう少しだけ

この唇が触れ合うまでは


君の顔がふっとみえなくなってから

何秒か小さな温もりがふたりの間に

白い吐息が溢れて空にきえていく

もう一度離れて君の顔をみあげたら

真っ赤っかになっていて思わず笑った

でも多分、私も人のこと言えないな


何だか暑くてマフラーも脱ぎたいくらい

だけど今日二人で買った揃いのマフラー

優しい温もりに満ち足りているから

帰るまでは外したくないや

君もきっとそうでしょう?


そっと手を繋いで歩き始めたら、

雪がふわり溶けてしまうほど

いいんだ 今日の雪は特別じゃない

君とふたりでこれからずっと

毎年降る雪を眺めたいと思う


こうして冬を明けたら次の季節へ

ふたりで生きていこうよ 約束しよう

少しだけ恥ずかしがり屋の私と君とで


チェック柄の優しい温もりがふたりを

繋ぐように今はただ 今はただ

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