夜を呼ぶ風

海沿いの街の小さな家で

風に吹かれてカラカラと

風見鶏が空を舞う


下ばかりしか見えなかった君は

そこに登って今何を思うのだろう

高みから見える景色はどんなだろう


毎日毎日忙しなくって

心が何だか苦しくなって

こうして逃げてきた僕を

カラカラと舞う君のいる空が

優しく包み込んでくれた


夕焼けが空に滲んでく

優しい夜が訪れる

いつもは朝を呼ぶ君が

夜を呼んできてくれた


方言混じりの会話が飛び交う

海沿いの街で僕はかつての僕になる


あのときとかわらない学校も

あのときとかわらない公園も

なくなってしまった八百屋も

あのとき君と出会った砂浜も

風に吹かれて時を超える


過ごした日々を思い返したくて

高台の公園から海を見つめてる

小さなブランコに窮屈に座って

そっと景色に耳を澄ます


自分が海に溶けだしていくように

自分が風に溶けて流れていくように

そんなふうに世界に浸る


毎日会社の室内で働いて

いつしか風を感じなくなっていて

まるで機械みたいになって

この身で風を感じるなんて久しくて


ああ、風見鶏

君みたいに僕は生きたい

この空に身を委ねて生きていたい


そんなことは叶わないけど

せめて今日だけは、今だけは

僕の心は君と同じ風に舞う


優しい夜を呼び寄せてくれる

君と共に空に舞う

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