夏に灯が走る時

頬に当たるその風は

いつになっても忘れない

あの時と同じ風だった


あの時とは何もかもが違うのに

いまだにあなたは小さなことを

私の足音だと思い込んで

夢見て期待してしまってる


いつも一緒にいたからさ

こんな急にいなくなったら

そりゃびっくりしちゃうよね

ひとりにしてごめんね


いつも撮ってた2人の写真

あなたにもらったスニーカー

褒めてもらった絵画もすべて

そっちに置いてきてしまったけど


この身に想い出だけを詰め込んで

私はひとりで旅に出るの

これから先の果てない世界へ


帰りの電車はきっとない

この手に握った一枚の切符


この手に残るうちはまだ

私は向こうには行けなくて

この電車を乗ったらもう

あなたのところには帰れない


だから後悔しないように

置いてきたの、想いだけ

あなたに残してきたんだよ


車窓から眺める景色が滲んでいく

どんどん過ぎ去るこの景色は

糸辿るように連なっていく

きっと走馬灯っていうんだろうな

過ぎ去った想い出の分だけ

あなたとの距離がひらいてく


あなたと転げ回った公園の

まだまだ青い草の香り

あなたと選んだ香水も

共に笑って過ごした日々も

炎天の下で奪い合った氷も


たくさん紡いできたのだと

今更のように思い出す


私はこんなにもらってたんだ

あなたにこんなにもらってたんだ

私はあなたに何か残せているかなあ


出会った夏の日のことが

最後に車窓から見えて

私の終わりが訪れる


凪いだ風が悲しみをぬぐって

これから何かになれるのならば

いつかあなたが一人で歩けるよう

追い風になろうってきめてるの


いつか出会ったあの風を

思い出さなくなる日まで

この別れの日さえも忘れるくらい

幸せになってほしいの


想いはずっと残してきたから

季節の中に、あなたのなかに

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