同級会

逆霧@ファンタジア文庫よりでびぅ

同級会

 実家から一枚のハガキが転送されてきた。小学校の同級会の招待状だった。


 そういえば、何年かに1度同級会が開かれていたようだ。だが僕は今まで1度も参加をしたことはなかった。風の噂では、地元に残った同級生たちがかなり仲良くしているらしい。


 大学時代は東京で遊んだりバイトをするのに一生懸命で、殆ど実家に帰らなかったし。卒業後に働き始めてなかなかタイミングが合わなかったのも有る。だけど1番の理由は、自分が当時と比べだいぶ太ってしまったというのがあった。


 こんな僕でも見栄みえのようなものはあるんだ。学生時代はそこそこシャープなルックスを保っていたし、小学校の頃は放課後皆でサッカーで遊んだりした時も、それなりに活躍していた。それが、こんな顔も体も贅肉を蓄えた状態で、当時の仲間に顔を合わせるのが少し恥ずかしかったんだ。


 今回の同級会は、担任だった1人の先生が定年退職を迎え、それで皆でお祝いをしようと言う会だった。そのためいつもより大々的に同級生を集めようとしているようだった。

 その先生は小学生時代にはだいぶお世話になったのを覚えている。当時は他のクラスの先生と比べても若く、僕たちとよく遊んでくれたりしたものだった。



 どうだろう。


 僕は鏡の前で自分の姿を見つめた。


 人間ドックでダイエットを勧められ、ここ半年ほどこまめにウォーキングなどをした甲斐もあり、ピーク時よりは少し痩せてきていた。頬のあたりも少しスッキリしたような気がする。勿論小学生の頃のマッチ棒みたいな自分とは比較にならないが。


 よし、行ってみようか。幸い、自由な独り身だ。


 そう言えばハガキを転送する時に、親から電話でそれを知らされたのだが。母親は、そろそろアンタも結婚相手見つけないと。こういうのも良い機会だから行けばいいじゃない。なんて言っていた。最近母親は、何でも僕の結婚と結びつけて話をする気がする。


 そんな事を思うと、ふと同じクラスに居た初恋の子を思い出した。


 あれ? 名前……なんて言ったっけ。20年も経つとそんな大事な事も思い出せない。当時は彼女の前で息をするのも大変だったのに。



 日曜日に開催される同級会に向けて、僕は金曜日に有給を取り、実家に前入りすることにした。金土日と、一日でも長めに顔を出すのも親孝行かなって。そう言えば兄貴の子供ももう小学生か。

 小学生の喜びそうなお土産を見繕い、僕は久々に実家に帰った。



 正月も帰ったり帰らなかったりの僕に、母親は気合を入れた料理で歓迎してくれる。それでも、食事のときには、結婚はまだなのか。と、そんな話題が多くなるのだが。


 実家での滞在期間は甥っ子達の相手で終わった気がする。

 日曜日の夕方、同級会に行った足でそのまま東京に帰るよ、と親に別れを告げて家を出た。母親は最後までそんな格好で行くの? と色々と心配をしていた。そんな変な格好かな?



 同級会の会場は、駅前にあるちょっとした宴会もできる居酒屋だった。少し早めに着いた僕は、心なしか緊張しながら店の前で他の同級生たちの姿を探した。まだ来ていないか。


 やがて同級生らしき同年代の人たちが、久しぶり。なんて言い合いながら集まり始めていた。チラッと僕の方を見る人も居たが誰も僕に話しかけてこない。やっぱ太って皆わからないのかなと、少し後悔をしながらも、ちょっと話しかける勇気が出ずにそんな集まりを見ていた。彼らはやがて時間になるとどんどんと店の中に入っていく。


 そんな姿に少し焦りながら、店に入っていく集団に名乗って近づくと皆同じ様に驚く。


 え? 小池くん?


 始めは少し参加に後悔をしていたが、段々とこの反応が癖になると言うか楽しくなってくる。久しぶりで何を話すか悩むところではあるのだが、割と容姿の変化が会話の取っ掛かりになるものなのだ。


 特に小学生という遊ぶことだけを考えていた時代の同士達だ。昔話に盛り上がり始めると、懐かしさの中で酒が進む。自分の容姿の変化なんて誰も気にしなくなる。


 そのうち、誰かが持ってきた卒業アルバムが回ってきて、またそれをさかなに近くの仲間と盛り上がる。ようやく僕の初恋の子の名前も思い出せた。そうだ。須藤さんだ。その須藤さんは……ちゃんと来ていた。上座に居る先生の隣りに座っていた。


 うんうん。凄く綺麗になっている。僕の先見の明もなかなかのものだな。同級生の誰かが綺麗どころを先生の隣にって仕掛けたに違いない。結果、僕の席からは離れてしまったが。


 幹事は、途中席替えをすると最初に言っていたのだが。場が盛り上がりすぎてそんなタイミングも無いまま同級会の2時間が終了した。


 盛り上がり、なかなか席を立とうとしない同級生たちに、幹事が2次会の会場を押さえてたのでそっちで続きをと必死に仕切っている。しかし流石に今から東京に帰らなくちゃいけない僕は1次会で帰ることを伝えた。どうやら県外に出ている同級生はあまり参加できなかったようで、殆ど皆2次会に参加すると言っていた。

 幹事をしてくれた旧友に、ご苦労さま、凄く楽しかったよとお礼を言う。


 店の前で、ようやく先生に挨拶をして、次の同級会でも顔を出す約束をした僕は、肩を組みながら繁華街に向かう仲間の後ろ姿をしばらく眺めていた。



 あれ?


 ふと横を見ると須藤さんが隣に立っていた。なんで?


 どうしたの? と聞くと、須藤さんも東京から今日の同級会のために帰省してきたという事だった。そうか、さっきは全く話せなかったもんな。近況も全然分からなかった。

 酒も入っていたし、同級会の楽しい気分のまま2人で駅に向かった。


 彼女は、今は両親ともに実家を売り払って、家族で東京に住んでいるという。

 生まれ育った田舎に帰ってきたのも本当に久しぶりということで、彼女は駅まで歩きながら、様変わりした街を不思議そうに見ていた。


「小池くんは指定席とってあるの?」

「いや。終わる時間が分からなかったからね、自由席で帰るつもり」

「良かった、私も指定取ってなかったの」


 そうか、須藤さんも明日仕事があるのか。

 新幹線の時間まで少し時間が有ったので、ホームに上る前に売店に寄り、地元のお土産などを購入した。先に買い物を済ませ店の外で待っていると、エコバックを下げた須藤さんが出てきた。


 出てきた須藤さんは、エコバックの袋の中をそっと見せてくれる。何本かの缶ビールが入っていた。


「小池くん、お酒は飲めるよね? さっき飲んでたもんね」

「え? うん。そんなに強くは無いけどね」

「じゃあ、電車の中で2人だけで2次会をしましょ」


 そう言って須藤さんはなんとも言えない笑顔で僕の方を見た。


 僕は……あの頃のように息をするのも大変になっている自分に気がついた。

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