それから

 六月下旬。公営住宅の一室で遺体が発見された。

 遺体は入居者の少女で、餓死が原因とみられる。

 異臭に気づいた近隣住民が公営住宅の管理人へ連絡し、部屋の確認に訪れた際に、死亡が発覚した。死後一ヶ月は経過しており、公営住宅には、ほとんど入居者がなかったため、発見に時間がかかったという。

 発見当時、少女のほかに住人はおらず、警察は両親の行方を追っている。また、少女は同時期に不登校になっており、学園生活でトラブルはなかったか、学校関係者からも当時の状況について詳しく話を聞いている。


「――知り合いに聞いたんだけど、布団を抱いたまま死んでたんだって。でね、体のあちこちには接着剤とホチキスのあとがあったみたい」

「図画工作かよ。てか森下さん? ってあんま記憶にないんだけど」

「影薄かったし。というか親もサイテーだけど、不登校を一ヶ月もほっとく学校もサイテーじゃね? 誰か救ってあげれる人とか居なかったんかね」

「他人は他人を救えないってことじゃん? ホラ、森下さんの友達だった子も不登校になったし。校内で不審者に襲われりゃあ、しょうがないけど」

「あーゆー風にはなりたくないよね」

「だったら受験勉強ガンバんないと」

 同級生モブキャラたちの興味は、次第に女子生徒モブキャラの不審死から目先の受験へと移ってゆく。自分たちが社会で死なないために、従順な労働の奴隷になるために。

 悲しいかな。身をもって反面教師になった女子生徒――森下という弱者は、せいぜい数日で忘れ去られてしまう。

 彼女と最後に関わった人物は、今もどこかの学校に紛れこんでいるのだろうか。それを知るのは次のターゲットのみである。


                                   了

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弱者の人となり 常陸乃ひかる @consan123

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