光と影の国 ~偽りの姫君~

近藤ヒロ

序章 終わりの始まり

序章 おわりと始まり


 とある国の、とある姫のもとへ多くの民が集まっていた。それは会場となっている城内の中庭では収まらず、その外まで広がっていた。人々の顔には笑顔が溢れ、みな口を揃えてその姫の名前を呼んでいた。

「—様万歳!」

「私たちの—姫が帰ってきた!」

「またウチのリンゴ食べに来てください!—姫!」

本当にお祭り騒ぎだ。賑わい、喜びを爆発させている民の声は控室にいる本人の所まで届いていた。

「爺、すみませんが人払いを。一人にさせてはもらえませんか?」

少女がそう言うと、側に控えていた老人がそっと手で侍女たちに合図を送る。音も立てず、侍女たちは部屋を後にした。

「御用がございましたら、すぐにお呼びください。」

と、言葉を残して老人も闇に解けるように部屋から姿を消した。

 腰まで伸びた絹のような金髪、長い睫毛、紺碧の瞳、スラリと伸びた四肢。しかし身に纏うは軽鎧に2本の細剣。華奢な体に反した装備の彼女は部屋に誰もいなくなったことを確認してから、柄に美しい装飾がされた細剣を抜いた。

「ようやく、ここまで来れたよ。見てる?これ全部あなたの為に集まってるんだよ。」

彼女は刀身に映った自分の顔を見つめて、噛みしめるように呟いた。その顔は周囲の喧騒に対して、深い慈しみの気持ちがうかがえる表情だった。

「待たせてごめんなさいね。ふふ、私がこんな事言うなんて、きっとあなたは今頃お腹を抱えて大笑いしているに違いないわ。」

よく手入れされた剣は、窓から差し込む光を反射させ、一際強く輝いた。

「いい返事ね。もう少しだけやることは残っているからちょっと片付けてくるわ。」

彼女は細剣に向かって言葉を交わし、その剣を鞘にしまってから指を鳴らした。

「お呼びでしょうか。」

闇からぬるりと先ほどの老人が現れた。

「そろそろ行こうと思います。準備はよろしいですか?」

「全て整っております。」

彼女の問いに、微動だにせず老人が答える。彼女は大きく頷いた。

「よろしい。それでは、カーテンコールと参りましょう。」

「御心のままに。」

彼女たちは部屋を出て、バルコニーへと向かって行った。


 城のバルコニーから彼女が現れる。喧騒に包まれていた中庭にその姿を見つけた者から順に静寂が訪れる。静寂が大きな波のように広がり、全くの無音になる。

「姫様。民たちが姫様のお言葉をお待ちしております。どうか、お言葉を。」

老人は跪き、彼女にそう伝えた。彼女もその言葉に頷き返し一歩前に出た。そして、腰の細剣を抜いて天に掲げた。

「親愛なるウェンディの民よ!国王である父上がお隠れになり、苦しい日々を強いてしまった。国をわがものとする奸賊により、皆の笑顔は失われてしまった。だが、それも今日で終わりである!奸賊を粛清した今、皆の前でこのフェルミナが新たな王となることを宣言する!皆の笑顔であふれる国を私と共に作ってはくれないか!」

 その刹那、割れんばかりの歓声が上がった。新たなる王の誕生の瞬間であった。


(まさか私がこんな事になるなんてね。人生何があるか分からないわ。ねぇ、フェルミナ?)

 彼女の瞳から一筋の雫が零れ落ちた。


これは、小さな国で起きた運命が交錯する物語。さて、なぜこうなったのか一緒に時を戻して見てみようではないか。

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