第26話 課題9 人を見て法を説け

 さてさて、一之瀬みのりという少女を観てきて一番私が気にかかっているのは、なんといっても、これ。


 人を見て法を説くことが、案外、出来ていない。

 えー、何と申しましょうか、これがね、みのりんの課題なのですよ。


 と、小西徳郎さん風に述べてみました。

 まあ実際、これがどうも、気にかかってしょうがないところではあるのよ。

 いつだったか、保育園に行って、桃太郎のエロ本じゃなくて(こらこらおっさん~わっはっは!)、絵本を読み聞かせておるところ、ありましたな。

 あれ見て、わし、なんか、昔の自分を改めて見せられとるようやった。


 そこでわしが思い出したのは何かというとな、まあ、その、それこそ、小西徳郎さんがNHKで志村正順アナウンサーとともに野球中継をしていた時代のプロ野球、そう、あの西鉄ライオンズの時代を思い出しましてな、監督の、三原脩さん。

 三原さんは、その「人を見て法を説く」ことが、抜群にうまい方だったと、後に私は関連書籍を読みまくって、知るところとなったのね。

 もちろん三原さんとて、人間ですから、ミスや失敗、いろいろ、おありでした。

 でもそれ書くと、単なるあらさがしになりかねないし、まあそうはいっても、それがまた三原さんの魅力の裏返しにもなりかねんところでは、あるのだが。

 それはともあれ、三原さんは、小西徳郎さんが平和台での日本シリーズで西鉄ファンに襲われかけた1958年当時の西鉄ライオンズというチームと、その2年後、大洋ホエールズ、それこそ、阪神ファンなら「万年最下位」をヤジるのもむなしくなるほどのチームを一気に日本一に持って行ったわけですけど。その2つのチームを、たった2年のうち、1年間があるにはあるけど、それどちらも日本一にしておるような人ですねん。

 もっとも、西鉄のほうは、初めて優勝するまでにはチーム作りから始めたから、4年かかっておる。それから1年あけて、3年連続の日本一。その3年目が、先程述べた平和台での大騒動だったのね。


 西鉄での三原さんは、チームの軸となる主力選手として、赤バットの川上に対抗した青バットの大下弘選手を東急フライヤーズから獲得。彼こそ大学出だったが、来る選手はほとんどが高卒。それも、やんちゃなのが多数。それらをまとめるときの三原さんは、まさに、飴と鞭を併用。もちろん、同じことを大下大選手にしたわけでは、ない。さて、そんなチームをものの見事に作り上げた三原さん、セリーグに戻って大洋ホエールズの監督になってされたのは、もちろん、西鉄時代のようなやり方じゃ、ない。そんなこと、しようにもできない。赤バットも青バットも、いない。

 さあ、どうする?

 ところでこのチーム、大学出が存外多いときておる。野球はそれなりにできるけど(でもプロだからすごいのだけど~苦笑)、西鉄のような手を使ったら、そりゃあ。へそを曲げてついでに茶もわかされて飲まされようもの。

 というわけで、とにもかくにも、選手の待遇を全般的に底上げすることにした。


 まず、少なくとも1軍は、遠征時の列車は3等級時代の2等にどうぞ。

 それから、球場の出入りの際のバスは、2人分の席を1人で使えるように。


 以上の二つが、ポイント。~とにかく、プロ野球の選手にもなってしみったれた目に遭わされては、仕事にならんだろう、諸君、そうでないか? って感じよ。

 要は、待遇が悪いから野球にならんのや、みたいな、それこそ、三原さんの娘婿の中西太さんが阪神監督時代にとある大投手に言われたようなことを言わせないような処置を、まずは、はっきりと打ち出す。

 そのうえで、選手の特性を見て、それを試合にうまくはめていく。

 一流になれんでもよろし。二流で結構。ただし、「超」の字がつく活躍ができるような使い方をされたというわけじゃ。

 そんな大学出の選手たち、それも、同じ苗字の選手であっても(ここではあまり関係ないか~苦笑)、早稲田出身の新人・近藤昭仁選手はそれ之猛練習で鍛え上げていた反面、3年目の明治出身の近藤和彦選手に対しては、天才肌だから自由にやらせる、ってぐらいのこと、やっとったわけね。

 この近藤和彦選手の打ち方は、なんと、「天秤棒打法」と呼ばれるシロモノで、当時の野球少年は、これを真似した人も結構おったみたいよ。

 王選手の一本足打法みたいに、人がしないやり方だから、そりゃ、目立つもん。

 まあ、大人の指導者は、さすがに、遊びでならともかくまじめにやるに際しては、そんな真似するなってことになっておったがな。


 とまあ、特製野球知識を披露するのはこのあたりにして、わしの娘(=隠し子)のみのりんについて。

 まあその、トロピカる部なるわけのわからん部活動に参加したわけではあるが、まあホンマに、わけわからん。わしにはついていけん(行く気もねえ~わっはっは)。

 それはともかく、その部活を通して、さまざまなことを学んでいることは認めるけど、なんかね、まだその、人を見て法を説くことに意識が向けられていないように思えるのね。自分基準で、人も判断してしまう。わしも、そんな傾向があったから、若い頃。それは大いに、反省しとる。でもまあ、あの当時は、自分が何とかやっていくことに精一杯だったからさ、無理もないと言えば、ないのだがね。

 わしのほうが実は、その傾向は(せっかく野球の本を読んで学んでおるにもかかわらず~苦笑)強かった。そのわしの娘(=隠し子)だと言えば、まあ、しょうがないかもな。

 でも、人を見て法を説くことができるようになったら、みのりんは、もっと成長すると思うぜ。これは親馬鹿ばかりでも、ないぞ。

 その頃にもなれば、小説であれ何であれ、きちんと文章を書いて表現できるだけの力がさらについていると、わしは思っておる。

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