暗闇に咲く花

まろまろ

第1話 壊れた日常

3年前のある日、何の前触れもなくその日は突然やってきた。


いつもとたいして変わらない日。小慣れた作業。

私はいつものように仕事をしていただけだった。


突然のめまい。突然の耳鳴り。平衡感覚はなくなりその場に座り込む事しかできない。

何が起きているのかわからず、軽くパニックになったのを鮮明に覚えている。


私はそれまでめまいに襲われたことはなかった。これはただごとではないと思い、迷わず脳の疾患を疑った。

しかし、恥ずかしい思いもあり、私は同僚に声をかけるのを躊躇っていた。


3分ほど経過したのち、パタリとめまいは治まった。


脳の疾患ってこんなにすぐ治まるものなのか?


私の母は看護師だ。幼い頃から自分で勝手に診断してはいけないと言い聞かされてきた。

私は上司に事情を話し早退の許可をもらい脳神経外科に向かうことにした。


脳神経外科に到着すると、ちょうどキャンセルが出たらしく飛び込みでMRIを受けることができた。


初めてのMRI。ちょっと怖い。


(ピシュン!ピシュン!ガー!!ガガガー!!!)


う、うるせぇ!


永遠に感じられるほど長かった。


検査後、小一時間ほど待ち診察室に通される。

私は入院を覚悟していた。せめてどうか手術できる場所であってくれ。


私が椅子に座ると先生の口は動き出した。


「何回も画像を確認しましたが、何も異常はありません。とても綺麗な脳です。」


「えっ?本当ですか?でも、すごいめまいがしたんです。」


先生は私が不安になっているのを感じ取ってくれたのだろう。

優しい笑顔で時折冗談を交え、一緒に画像を見ながらゆっくり丁寧に説明してくれた。


診察室を出て会計を済ませ、お小遣いの少ない私はMRIの受診料に震えた。覚悟はしていましたが、お高いものなのですね。


妻はお金をくれるだろうか。


そんなこんなで安堵して帰宅の途についた。

安堵はしていたが、不安は完全に払拭されたわけではなかった。


だったらあのめまいは何だったんだろう。


そんな事を考えながら帰宅をした私は妻の作った晩御飯を食べ、子供とお風呂に入り、ソファで横になってテレビを見ていた。


その時、私の身体は再び異変に襲われる。




何か身体がおかしい。


でも、何がおかしいのかわからない。


急にとてつもない不安が押し寄せる。


早くなる鼓動。


怖い。すごく怖い。


どんどん体調が悪化していくのがわかる。


さらに早くなる鼓動。


全身の力が抜けていく感覚。


呼吸が苦しい気がする。


見えているのに何も見えていない。


暗闇に閉じ込められたような感覚。


怖い。助けて欲しい。死にたくない。




私はようやく絞り出した声で妻を呼んだ。


キョトンとしている妻。それもそのはず。

私はこんなに苦しんでいるのに妻から見れば、旦那がただソファに寝転んでいるだけなのだ。


か細い声で事情を説明し、子供達を母に任せると妻の運転で救急病院に向かった。

しかし、病院に到着し診察室に入る頃、嘘みたいに症状は治っていた。


「なるほど。では、また何かあったら来てください。」


なんか無性に恥ずかしかった。先生から見たらヨレヨレのスウェットを着た太ったおじさんが来ただけなのだ。


先生、嘘じゃないんです!本当に身体がおかしかったんです!


恥ずかしさを紛らわすように帰りにコンビニに寄り、妻と並んで大好きなジャンボフランクを頬張りながら帰宅した。


窓の外を眺めながら、私はふと思った。ソファに寝転んで見ていたクイズ番組の答えは何だったのだろう。


私はまだ知らない。

ここから私の体調は悪化の一途を辿ることを。

これはまだ序章に過ぎないのである。

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