描写は史実を辿るかのように現実的、しかし『忍者』のロマンもある一品!

「瑞祥」と呼ばれた時代における記録に残らない話。
架空の史実を綴った歴史小説です。といっても歴史小説らしいかたく古臭い文章ではなく、とても読み易い作りとなっています。異能染みた能力も存在するあたりが、あれだけ活躍していながら正史上に名を残さない『忍者』のロマンを表していて素晴らしいです。
第一話から感じた印象として、展開の面白さもありますがそれ以上に文章が丁寧です。
現代とは違った環境でありながら、読者が情景を見失うという事がなく、さやのちょっとした行動からは、彼女の不器用で優しい人となりが分かります。
第四話における戦闘では、毒や爆ぜ玉などといった絡め手を使った戦術に、複数の作戦を以てして敵を追い詰める、さやの姿が目に映るようでした。圧倒的な速度感や派手さというよりは、忍びらしく静かに戦う姿が印象的です。
その後の展開としては、さやの過去と共に瑞祥の日本における史実が語られます。
語りが淡々と述べられているため読み易いですが、ストーリーがあまりに重いです。悪夢のシーンなど、読んでいるこちらまで苦しくなるシーンがいくつかありました。
今後も続くのであろう試練に、さやがどのようにして立ち向かっていくのか。
期待が止まらない一作です。

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